革靴が持つサステイナビリティを担う重要な存在が、靴のリペアを行う修理店。各地域で独自の活動を行う修理店を訪ね修理への思いや、考えを伺った。
HUDSON Kutsuten
ハドソン靴店
日本の職人技術による、手仕事のシューリペア。
東急東横線・横浜のひとつ手前、反町は、マンションなどが立ち並ぶ住宅地だが、かつては付近に花街などもあり、賑やか地域だったという。駅の西側に延びる松本商店街も往時は人通りが多かったというが、いまはその面影はなく静かな裏道の風情だ。その商店街の中ほどに位置しているのが靴修理を手がける工房『ハドソン靴店』である。レトロな外観の店を入ると、来店客に背を向けるように屈んで作業を行なっている職人の姿が目に入る。店主の村上塁氏と、靴メーカーを経て昨年この工房に参加した秋好俊彦氏である。
『ハドソン靴店』は1961年創業。あの靴職人・関信義氏とともに名人といわれていた手製靴職人の佐藤正利氏が開業した。そして時代が下って2000年代、村上氏はその佐藤氏に師事して手製の靴づくりを学んだ。また彼は関氏にも教えを乞うたという。その後村上氏は、自身の靴づくりや靴づくりの技術を追求しつつ、手製靴の職人として仕事を請け負うようになった。しかし単価の低い請け負い仕事で経済的に厳しく、将来を悲観し靴づくりに関することは全てやめようと思いつめたこともあったという。そんな折、亡くなった師匠の仏前に焼香した際、おかみさんから店を継承する人が誰もいないことを聞かされる。そこで村上氏はおかみさんとも話した上で、修理店として店を受け継いでいくことにしたのだった。
「食うために職人をやれ、そのために柔軟に対応しろ、それは佐藤さんや関さんからの教えでした。それもあって、靴づくりにこだわりはありませんでした」
そう振り返る村上氏。このスタンスが奏功した。自分たちが持っている技術で対応できる修理は何でも受けた。次第に、その複雑さや繊細な要求などから、他店で断られて宙ぶらりんになっていた修理がやってくるようになる。
「多くの場合、まず靴修理に対する嫌な思いを払拭していただくところからスタートです。最初の打ち合わせに2時間かけることもあります」
さらに、自分自身のやり方云々の前に、各お客様の注文に応えることが重要、と村上氏は語る。その注文内容とは、例えば半カラス仕上げのソールのエッジに合わせて、コバの下ヅメを残す形でハーフラバーを貼ってもらいたい、といった具合。
「求めるもの、こうしたほうがいいのではないかということを捉える能力は、お客様のほうがすごいと思わされることが多い。そうした感覚に対して誤魔化しは効かないな、とつくづく思います」
こうした依頼に応えてきた結果、修理料金は上がってしまったが、それでも修理依頼は引きも切らず、海外からもやってくる。もちろんそれは手製靴の権威だった師匠直伝の、村上氏の高い技術が主たる理由だろうが、さらに、顧客と靴にどこまでも寄り添おうとする村上氏の真摯なスタンスを、多くの人が感じ取っているからではないだろうか。そして、開店して10年を経て、修理の一方で、今後は自分たちが手がける靴を始動する予定という。
ハドソン靴店
住所:神奈川県横浜市神奈川区松本町 3-26-3
電話:045-294-3162 完全予約制
営業:10:00〜20:00 火・水休
HP:https://www.hudsonkutsuten.com
photographs_Satoko Imazu, Takao Ohta
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌『LAST』issue.18 「Meet Independent Cobblers 個性あふれる、靴修理店を訪ねて」より抜粋。