革靴が持つサステイナビリティを担う重要な存在が、靴のリペアを行う修理店。各地域で独自の活動を行う修理店を訪ね修理への思いや、考えを伺った。
GRENSTOCK
グレンストック
探究を重ねて飽くことない、靴修理の奥深さ。
本誌17号にて、グッドイヤーウェルテッド、ハンドソーンウェルテッド、マッケイの3種のつくりを解説する、内部構造が半分露出している模型を制作していただいた五宝賢太郎氏。クラフト性の中に、どこかアーティスティックな感性が感じられる彼が営んでいるのが、靴修理店『GRENSTOCK(グレンストック)』である。五宝氏は茨城大学でプロダクトデザインを学ぶ一方で、幼少期から持っていた靴への興味が衰えず、靴職人の稲村有好氏に弟子入りした。いまも埼玉県蕨市にある『グレンストック』最初の店は、亡くなった稲村氏の店『時代屋』を引き継いだ後、2010年に改称しスタートしたものだ。独立以来オーダーメイドの靴づくりと靴修理の両方を手がけてきて、2016年には今回取材に訪れた六本木店をオープンしている。
「リフォームなのか、リペアなのかで違ってきます、その意味はわかりますか」
修理のディテールについて聞こうとすると、五宝氏はいきなり謎かけのようなことを口にした。その後話題はシャンクの角度へ。
「修理に持ち込まれる靴の中には、通常横から見るとアーチ状になっているはずのシャンクが、たるんでいたり、沈んでいる場合があります。そういう使い込んだ靴だからこその、チューニングが必要です。その場合は、ヒールの長さを変えたり、ヒール前方上部の高さや角度を変えたりといった対応が求められます。それがリペアということ。その一方でリフォームは復元修復、それは例えば『絵画修復師』みたいなことです。私が言いたかったのは、自分たちがやっているのはリフォームではない、ということです。元に戻すわけではないのです」
さらに五宝氏は「ケミカル」か「ナチュラル」かの違いについても言及した。
「つま先にキズが出来た場合、ケミカルなレザーパテを使ったらすぐにキズが埋まって、見た目何もない感じになりますが、劣化が早く、2〜3ヶ月後どうなっているかわかりません。その一方でナチュラルな素材、蜜蝋などを含んだ乳化性のワックスでキズをケアしても、凹凸感は残ってしまいますが、しばらくすると革に馴染んで案外気にならなくなることもあります」
その靴とどう付き合っていくのか、相手は何を求めているのか。それを見極めることが修理の難しさであり、面白さでもあると語る五宝氏。修理についてここまで本質的に思考を巡らす人は珍しいのではないだろうか。
「うちのような修理店は、履き心地を担保しながら、お客様にとって最小公倍数の仕上がりを目指していく感じだと思っています。だからこそ、先のシャンクの話で説明したような、お客様の靴の状態にあわせた、チューニングをしなくてはいけないと思っています。例えるならばそれは、町医者のようなスタンスなのかもしれません」
グレンストック 六本木店
住所:東京都港区六本木 5-16-9
電話:03-6277-7129
営業:11:00〜20:00 日休
HP:http://grenstock.org
photographs_Satoko Imazu, Takao Ohta
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌『LAST』issue.18 「Meet Independent Cobblers 個性あふれる、靴修理店を訪ねて」より抜粋。