『カルマンソロジー』表現としての「ポップアップ」プレゼンテーション

ミニマムな白い什器、並ぶ黒一色の靴たち。ポップアップに込められたデザイナーの意図とは。

以前トゥモローランド 渋谷本店のメンズフロアにて行われた、カルマンソロジーのポップアップ・ストアの様子。テンションコードのように、コンビの靴が配置されている。 

白く長い直方体に足をつけたような簡素な什器。その上に複数の黒い革靴が隊列を組むように整然と並ぶ。さまざまなショップの一角で開催されてきた『カルマンソロジー』のポップアップでは、常にそうした光景が見られた。「自分自身のイメージは当初からはっきりしていました。白い什器、佇む靴、優しい光。その3つの要素で十分でした。あとはそれぞれのバランスを整えただけです。什器の長さや高さ、光のまわり方、靴を置く位置など。多くの靴店では、靴は棚に並べることが多いですが、そうではない見え方、何もない平面に靴を置くのがいいのではと思ったのです」このように語る、『カルマンソロジー』デザイナーの金子真氏。期間限定でショップの店頭等にて商品をプレゼンテーションする「ポップアップ・ストア」で自身のブランドを展開することは、ファーストコレクション以前から決めていたという。

「ブランドを進める上で、心がけていたのは端的にということでした。無駄と感じることを省き、シンプルに美しいと思えることのみを表現していく、それが当初の発想でした」また、自分が表現したいことはファッション、とも語る金子氏。ゆえにブランドの世界観を伝えることが重要で、店頭に並ぶ10あるうちのひとつの靴として展開するより、ポップアップを選ぶほうが自然だった。ポップアップというスタイルが、シューズブランドではあまり行われていないことも、その方法を選んだ理由のひとつだったとも。「靴の売り方に関して、自分なりのものを出したいとも思っていました」かくして金子氏は先述した白い什器などを自らの手でデザインし、さらにそこに並ぶ靴はブラックカラーに統一された。「自分の中には、美しい黒の靴を通過してはじめて、他の色の靴があり得るという意識があります。カルマンソロジーはまだ序章であり、自分は黒の靴にこだわりがある。だったら黒のみで始めてもいいのかなと。それはブランドとしての見せ方にこだわった結果でもあります」

デザイナーの金子氏が、ポップアップの店頭に立って顧客の対応を行うことも多い。そうした直接的な コミュニケーションから、さまざまなことがわかってくると金子氏。

お客様からの声によるさまざまな気づき

金子氏は日本各地で行われるポップアップに赴き、来店客に対応している。それは彼にさまざまな気づきをもたらすことになった。「お客様から直接聞く声が何物にも替え難く感じています。もっとこうあって欲しい、とはっきり仰られる方も多く、そうしたご意見を真摯に受け止めつつ、自分のクリエーションにつなげていきたいと思っています。また、それまでスニーカーを履いてきた方が初めて履く革靴として選ばれるケースが多いとわかったので、今後は革靴ならではのサイズ感をどのように伝えるか、さらにそうしたお客様を念頭においた靴づくりも模索していきたいと考えています。こうした考え方は、ポップアップで店頭に立つことなくしては、至らなかったと思っています」ちなみに、今回の写真は、先日トゥモローランド 渋谷本店で行われたポップアップを撮影したもの。従来の白一色の什器は、側面などを黒に塗ったものに変更されていた。

「この春夏の『PAGE. 03』コレクションでは、従来と少し方向性を変えた展開にしています。今回映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」から着想して、白と黒のコンビの靴をつくったのですが、その作品で印象に残ったのが、コミュニケーションということでした。現代はSNS上で会話が成り立つ時代ですが、 映画を観るうち、伝えるということの大切さが失われているように思えたのです。直に会話する事の大切さを表現したい。さらに感情の表現は言葉でなくても、音やしぐさでも相手に伝わるということ。そこで今回はお客様とより深くコミュニケーションできることを願い、音楽の基本でもあるピアノをイメージした什器にして、ディスプレイを行いました」こうした変化も、ポップアップと、それにまつわる経験が導いた、クリエーションの発露かもしれない。

ディスプレイを細かくチェックする金子氏。そこだけが異界として、周囲から切り取られているかのようだった。
今回はピアノをイメージして、側面を黒に変更したディスプレイ用の什器。シンプルな形状が、靴の存在感を見る者に印象付ける。
金子 真
国内著名シューズブランドのデザイナーを17年間務めたのち、2018年春夏よりカルマンソロジーをスタート。3シーズン目となる2019年春夏では、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」をアイデアソースとして、従来の黒を基調としたコレクションに、音楽やダンスを感じさせるコンビカラーの靴が加えられている。

photographs_Hirotaka Hashimoto


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