『MANOLO BLAHNIK(マノロ ブラニク)』カリスマデザイナーのメンズライン、新たな展開へ。

マノロ ブラニク
1972年、イギリス・ロンドンにて、デザイナーのマノロ・ブラニク氏が自身の名を冠したブランドでコレクションデビュー。世界中のセレブを顧客に持つ人気ブランドに。現在、メンズラインも展開。

世界中の女性が魔法の靴として崇める『マノロ ブラニク』の靴

男性読者にはピンとこないかもしれないが、マノロ ブラニクの靴は、世界中の女性にとって憧れの存在なのだ。故ダイアナ妃やマドンナをはじめとした世界のセレブが愛する靴として知られ、アメリカの人気ドラマシリーズ『セックス・アンド・ザ・ シティ』では主人公がマノロ ブラニクの靴のマニアとして描かれていた。

その人気の理由は、卓越した才能から生まれる美しく個性的なデザインもさることながら、世界で唯一走れるピンヒールと称されるその快適さにある。ピンヒールに縁遠い男性でも、快適で美しい靴ならば食指が動くのではないだろうか。そこで、50年近くウィメンズシューズをメインにしてきたマノロ ブラニクが、2018年春夏コレクションから本格的にメンズラインをローンチ。そして2018年7月にはロンドンにメンズストアをオープンした。

魔法の靴が生まれる現場を訪ねてイタリアのトスカーナへ

マノロ ブラニクはその靴づくりのほとんどをイタリアで行っているが、メンズも同様。これはメンズラインを担うメーカーがあるイタリアのヴィンチ村の風景。トスカーナらしい美しい田園風景が広がるこの村は、かのレオナルド・ダ・ヴィンチの生誕地としても知られている。

その噂のメンズラインの実像を知るべく、マノロ ブラニクが靴づくりのパートナーとして選んだイタリア・ヴィンチ村にあるファクトリーを訪ねた。イタリア有数の革の産地であり、シューズメーカーも数多いトスカーナに位置するこの老舗ファクトリーでは、部分的に外部メーカーに依頼する以外は靴づくりのほぼすべての工程を自社で担っている。ゆえにデザイナーからのオリジナリティ溢れるリクエストや、プロトタイプ制作における細かな調整に柔軟に対応することができるのだ。また本来クラシックなスタイルを得意とし、職人技を駆使した確かな靴づくりで定評のあるファクトリーでもあるので、「メンズシューズにはまず快適さを求め、伝統とモダンをミックスさせたスタイルにしたい」と考えるマノロ ブラニクの方向性ともマッチしている。

マノロ・ブラニク氏自身はサヴィル・ロウのテーラードスタイルを好み、その着こなしは英国紳士のそれだ(もっとも彼はスペイン出身ではあるが)。彼がつくるメンズシューズは、ジェントルマンズスタイルにライトな感覚やカラフルなひねりを加えることを意図しているという。もともとメンズシューズは自分自身や親しい友人などごく内輪向けのものだったとも。だが、ここ数年メンズシューズもデザインしてほしいという多くのリクエストがあり、まさに満を持してのメンズラインの本格スタートだったらしい。

こうして生まれたのが、ブレイク、グッドイヤー、ノルヴェジェーゼといった伝統的な各製法を駆使し、あくまでクラシックな、仕上げの良いモノでありながらも、カラーバリエーションを豊富に、ステッチに凝ったり、部分的にエキゾチックレザーを使うなどのディテールで遊びを加えたコレクション。そこにはどこかフェミニンな雰囲気も漂うが、まさにそれがスパイスとして靴の魅力を引き立てる。

ファクトリー内で使われている様々な色の糸。マノロ ブラニクの靴の特徴のひとつはそのカラフルな色使いにある。
ブラニク氏によるデザイン画はまずはテープを貼ったラスト上に立体上で描かれ、それをまた平面的なパターンに起こす。そのパターンを基に、プロトタイプの作成やエキゾチックレザーを扱う際は手作業でカットがなされる。
使われているレザーのほとんどはイタリア産。特にカーフとスエードが多くを占める。マノロ ブラニク向けにカラフルなものも多く取り揃えられている。
工場内に無造作に置かれているラストたち。

創造性とイタリアの職人性の融合
『マノロ ブラニク』メンズストアが東京にオープン

さて、このファクトリーの現場には、75歳の現在においても精力的にデザインを続けるブラニク氏のデッサンがそのまま送られてきて、それを熟練の職人がテープを貼ったラスト上に直接描いてから平面的なパターンにトランスレートする。製法上、または耐久性の問題などで実現するのが困難なデザインにはファクトリー側からNGを出すこともあるとか。こうしたやりとりを何度も重ねて、試作を繰り返しながらプロトタイプを仕上げていく。「デザイナーであると同時にシューメーカーでありたい」と語るブラニク氏は、職人達の仕事に信頼とリスペクトを持ち、ファクトリーの現場をしばしば訪れてはここで長い時間を過ごすのだそうだ。

このファクトリーではエキゾチックレザーを始めとした革裁断、インソール部分の補強など細かいピースの準備、つり込みや縫い、色付けやポリッシュなどの作業工程において多くの手作業が加えられているが、それらは製品の質を高めるというだけでなく、マノロ ブラニクのデザインを具現化するのにも役立っている。例えば、彼が好んで使うパッチワークやバイカラーのモチーフは柄合わせが必要となるため、普通の靴以上のケアが必要だ。またマノロ ブラニクが得意とする鮮やかなカラーのレザーは、ダークカラーが多い他のメンズシューズと同じ様に作業すると汚れてしまうので、細心の注意を払わねばならない。さらにハンドペインティングのソールや、独特のステッチなどが使われているアイテムも多い。この辺りの微細な作業は手仕事で行われるからこそできることなのだ。

さてそんな待望のマノロ ブラニクのメンズストアが、2019年の4月に東京にもオープンした。世界の他都市に先駆けてロンドンの次に東京を選んだのは、ブラニク氏のベースである英国のテイストと日本のそれがとても近いと考えるからだとか。両者に共通するのがトラディショナルである一方でストリート的な要素も色濃いという点であり、それがエレガントでありながらもどこか楽しい要素を盛り込んでパンチをきかせたマノロ ブラニクの靴のテイストにつながっている。靴を愛する特別な顧客を満足させたいという一心からつくっているというブラニク氏によるメンズシューズは、日本でも多くの人々を魅了するに違いない。

アッパー部分のピースを縫い合わせていく職人。この工場ではミシンなどの機械類も古い独特のものをメンテナンスして使っている。
デザイン画から具体化されたアンクルブーツのアッパー部分。
出来上がったピースをチェック。補強部分などもきちんとついているかを確認する。
マノロ ブラニクらしい大きなタッセルの付いたローファー。ディテールを誇張するのも彼のデザインの特徴の一つだが、製作段階においてはそれを傷つけないためのケアが必要。注意深くハンマーで形を整える。
撮影時に行われていたのは主にブレイク製法による作業。ソールをめくった部分を縫製。その部分を糊付けし、ソール部分をたたいて整える。その後はその部分を削ってきれいにしてスムースなソールに仕上げる。
ソールの色にもこだわり、アッパーと同じトーンに色付けする。その後、丁寧に磨いてつやを出す。
ブラニク氏が好んでデザインするバイカラーのウイングチップのコバの部分を削って美しく整えている。このように多くの作業段階で人の手が入り、一足一足が丁寧に仕上げられていく。

photographs_Tomoyuki Tsuruta, text_Miki Tanaka
〇 雑誌『LAST』 issue.16 より

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