さらりと示された超絶技巧 Sanyo Yamacho “ZERO Series”

Sanyo Yamacho “ZERO Series”

「ホールカットは次世代のストレートチップになりますよ」そう語ったのは伊勢丹新宿店メンズ館のバイヤー、鏡陽介氏だ。アッパーを一枚の革で仕立てたシンプルなドレスシューズの人気がジワジワと上昇しているのだ。

手前から:4 アイレットのホールカット「壱/ ICHI」。ホールカットシューズにダミーのステッチを入れ、ストレートチップのデザインとした驚愕の「弐/ NI」。ホールカットのタッセルスリッポンという珍しい意匠の「参/SAN」。各¥330,000

 このタイプの靴は19世紀から作られていたが、20 世紀後半に一旦命脈が絶たれてしまい、復活したのは今世紀に入ってからだという。理由は製作の困難さであろう。アッパーを一枚革で仕立てようとすると、二次元の皮革を三次元のラストに密着させなければならず、膨大な手間と時間が必要になるのだ。

 具体的には水に濡らし、柔らかくした革を手作業で少しずつ吊り込んでいき、位置決めをしてラストから外し、余った部分を切り取り、再び吊り込むのだ。しくじるとシワが寄ったり、位置がズレたり、最悪の場合、アッパーが破けてしまうことになる。ホールカットを謳う靴でも、大抵は踵や内側に一カ所は継ぎ目があるものだ。あまりに手がかかるので、今まではビスポークで散見される程度だった。

 ところが今回、三陽山長はひとつの継ぎ目もない「零」シリーズを発表した。在庫を揃えなければならない既製靴においては快挙といえよう。「日本最高峰の技術をお客様と共有したかったのです。しかし、一足作ると職人の両腕がパンパンに腫れてしまう。採算もぎりぎりなんですよ」と担当氏は苦笑いする。

ご覧のような楕円形の一枚革からアッパーが形作られる。一度吊り込んだ後余分な部分を切り落とし、再び吊り込み直す。

 実物のゼロシームを、店頭で手に取り、試すことができる̶このことこそが画期的なのだ。一度に三足まとめて買い求める人も多いという。ニッポンの職人の超絶技巧と心意気が、違いのわかる顧客の胸を打つのである。

● LAST issue27より

information contact
Sanyo Yamacho(三陽山長 日本橋髙島屋S.C. 店)
tel:03-6281-9857


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