革靴とは、装いにのみに有効なものか。誰よりもグッドイヤーウェルテッドの靴を知る達人が最近日常的に「革靴で歩いている」と聞いて、歩き、活動する道具としての革靴について、お話を伺った。
お話を伺った人
中川一康 なかがわひろやす
靴修理店『UNION WORKS(ユニオンワークス)』代表。グッドイヤーウェルテッドの靴を中心に靴修理を営んで25年以上になる。2019年10月には7店舗目となる横浜店を山下町のヴィンテージビルにオープンした。
https://www.union-works.co.jp
「紳士靴は嗜好品の側面が確かにありますが、同時に歩くための道具でもあるはずです。みなさんちょっと大事にしすぎていませんか」
ユニオンワークス代表の中川一康さんは開口一番そんな風に語った。いい靴を履いているとき、あまり歩かないようにしようと考えたことは、誰しも一度くらいあるのではないだろうか。そんな心理を揺さぶるような言葉だった。
ほぼ毎日、手持ちの革靴で歩いているという中川さん。テーラードウェアなどが中心の自分の服装に合わないから、ウォーキング用の靴を選ぶことはない。自宅のある用賀から工場まで、片道3300歩、約30分のウォーキング。外出がない時はその往復。外出先でもエレベーターなどは使わず、極力歩くようにしているそうだ。
「おかげで長年患っていた坐骨神経痛が治って、健康になりました。革靴とは関係ないかもしれませんが、歩くことの効果でしょうね」
さらに、歩く生活の中で、革靴に対する見方が変わったとも。
「まず、選ぶサイズが少し小さめになりました。特にスリップオンは、1サイズ半下げたものもあります。歩く際に緩いのは苦痛です。ボールジョイントのホールド感と、踵が動かないことが重要。足を出すときにヒールを擦ってしまうな音がするのはダメなんです」
この音こそ、中川さんが革靴で歩く楽しみでもあるそう。
「足にあった靴で歩いていると、コツコツといい音がするじゃないですか。昼間の喧騒だとわかりませんが、深夜に帰宅するときなど、その音に酔えますね。最近だと気に入った靴に足入れすると身が引き締まり、背筋が伸びる感じがあって、つい歩きたくなります」
photographs_Satoko Imazu
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌『LAST』issue.17 「BASIC KNOWLEDGE about Shoes 6.WALK 革靴で歩く、ということ。」より抜粋。