スペイン・アルマンサ発、 品質に妥協しない靴づくりとは。|Berwick1707 バーウィック

スペイン・アルマンサのファクトリーにて生産途中の『バーウィック』の最新モデル。いくつかのブランドの靴づくりも手がけているシューズメーカーのオリジナルブランドである。

今季より日本にて本格展開を始めたスペイン・アルマンサのシューズブランド『バーウィック』。高い品質を実現するグッドイヤーウェルテッドの靴づくりを訪ねた。


古くから続くアルマンサの製靴産業を更新する存在。

『バーウィック』という名の靴を、近年目にすることが多くなったと感じている靴好き諸兄は多いに違いない。3月には東京・丸の内にフラッグシップショップがオープンし、大阪店もリニューアル、今季より日本において本格的な展開を果たしている同ブランド。正式名称は『バーウィック1707』。この「1707」は創業年を指しているわけではない。

 地中海沿岸のスペインの都市バレンシアから少し内陸に入ったところに、アルマンサという町がある。『バーウィック』のファクトリーはここに位置しているが、この町の名は、18世紀初頭のスペイン継承戦争において、スペイン・フランス連合軍と英国・オランダ・ポルトガル連合軍が激突した1707年の「アルマンサの戦い」の戦場として、広く知られている。この戦闘においてスペイン王フェリペ5世に勝利をもたらした功労者が、フランス軍の将軍、ベリック公(Duke ofBerwick)だった。そこで、自らの本拠地への敬意と、ベリック公のルーツ・英国の靴づくりの典型であるグッドイヤーウェルテッド製法を追求する意志を込めて、『バーウィック 1707』というブランド名を冠したのだった。

「1997年にグッドイヤーウェルテッドの靴づくりを始めました。私は15歳からこの地域の靴産業で働き始め、1981年に自身のシューズメーカーを設立して、マッケイ製法やセメント製法の靴づくりを行ってきました。その一方でグッドイヤーウェルテッドの靴づくりが新鮮に映って、興味を持ったのです。開始当初アルマンサではグッドイヤーウェルテッドでブーツをつくっているメーカーはいくつかあったのですが、いわゆるクラシックな紳士靴をグッドイヤーウェルテッド製法でつくっていたのは、私たちの他にいませんでした」

 こう語るのは、『バーウィック』の生産を行う「ミランクラシック」社を率いるフランシスコ・ミラン・ヒメネス社長。100年以上前からあったという同地の製靴産業のノウハウを活かしながら、彼は独自に靴づくりを追求し、現在の『バーウィック』の靴が確立されている。

 アルマンサ郊外にあるファクトリーは、移転して今年で5年目というまだ新しい工場。もとは家具工場で、屋内では余裕あるスペースで靴づくりが行われていた。

 最初に案内されたのは、アッパーの革の裁断を行うエリア。広げて積み上げられた大小さまざまな革は、フランスや英国、スペイン、イタリアのタンナーのものという。ちょうどフランス・アノネイ社の「ベガノ」が、最新のレーザーカッターで裁断されていた。昔ながらの抜き型を使った手作業も行なわれているが、断面が美しいと、半分ほどがレーザーによるクリッキングになっている。

 裁断の工程の隣には、アッパーの作業を行う工程があった。英国ノーザンプトンのファクトリーでは階をまたいで各工程が設けられていたりするが、ここでは広いスペースを有効に活用して、水平移動で靴づくりの全てが行われる。ひとつのモデルの各サイズをワンセットに、スカイヴィング(漉き)やステッチングなどが分業で進められていく。

 さらに縫製されたアッパーは、急ぎではない場合、つり込み作業の前に湿度を高めた部屋に入れて、革に適度なうるおいを与えていた。これは高級既製靴メーカーでよく行われている「ひと手間」でもある。

革をレーザーカットするクリッキングのマシン。コンピュータと直結しているが、革の表面は熟練のワーカーが都度確認している。

部材から製法まで、
独自の靴づくりへのこだわり。

 つり込みから底付けに至る、ボトムメイキングの工程の前に、膨大なラストが置かれた場所に案内された。担当者によれば、現状100種以上の木型があり、さらに毎シーズン1〜2型が追加されているという。そこで見せられたのが、今回の日本での本格展開にあわせて導入された木型「261」。日本人の足にあわせて、足幅を広く、ヒールカップ(踵部)を小ぶりにしてあるという。こうした臨機応変な対応も、『バーウィック』の実力といえるだろう。

 またユニークだったのが、つり込みを終えたアッパーを、ウェルティングの前に職人が手仕事で色付けする工程。通常は仕上げとして靴が完成した後に行われるものだが、より革に色が馴染むのと、工程中の革の乾燥を防ぐ効果もあると、このプロセスになっているという。そこには靴づくりと品質に関する、同ブランド独自の見識が窺える。

 そんなファクトリーのオリジナリティがもっともよく表れていたのが、靴づくりの工程の階下にあった、ソールやヒールなどをつくる工程。そこではベンズから、アウトソールやインソール、各ヒールパーツまでがカットされ、仕上げられていた。さらにラバーソールまでそこで生産されていたことは驚きだった。

「何かひとつの作業、ひとりの職人の力が欠けていても、いいものはできません。現状の『バーウィック』はまだ80%。靴づくりに関わるひとりひとりが100%になることで、いい靴になるのではないでしょうか」とヒメネス社長。素材から靴づくりの各工程まで妥協を許さないその姿勢は、さらに上のステージを目指しているようだ。

底付けの工程は合理的にコンベアーを使って進められている。高品質の靴がかなりの数量つくられているのがわかる。

Berwick1707
日本では、東京・丸の内と大阪・北浜でオフィシャルショップを展開している。
https://berwickjapan.co.jp/


photographs_Satoko Imazu
text_Yukihiro Sugawara
◯「LAST」issue18 /『Berwick1707 バーウィック スペイン・アルマンサ発、品質に妥協しない靴づくりとは。』より抜粋。

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