インタビュー『Siroeno Yosui(シロエノヨウスイ)』MTOの靴づくりとは何か。

靴づくりの作業を行う片岡謙氏(右)と髙井俊秀氏(左)。簡素ともいえるアトリエ空間が、彼らの靴づくりへの真摯な姿勢を表しているようにも思える。

靴好きの間で話題となっている、若き2人の職人の工房。キャラクターを打ち出すためのMTOが表現するものとは。

ーまず、ブランドのスタートはいつでしょうか。あと、ユニークな響きの名前についてお聞かせください。

「ブランドスタートは2019年11月です。当初はビスポークの靴づくりでした。ブランド名は、私(片岡氏)の地元の水路の名前からとりました。響きが印象に残っていたのと、水路から作物が豊かに実っていくイメージがいいなと」

ーMTOを始めた理由は。

「MTOを始めたのは2020年11月。ブランドのキャラクターを知ってもらうきっかけ になればと思い始めました。ビスポークはお客様の要望に応じるものですから。ゆえにビスポークとMTOはつくりも、素材も一緒です」

ーMTOの靴づくりに関して、工房でどの範囲を手がけられていますか?

「木型のグレーディングなどは外部ですが、それ以外は全て自工房でやっています。シューツリーの製作なども。一応ふたりともひと通り靴づくりの作業はできますが、現状では私(片岡氏)が木型やパターン、アッパーづくり、髙井がボトムメイキングを主に担当しています」

ミシンのある部屋の窓際にかけられていたアッパー。アッパーの縫製も自工房で行っている。

ーMTOの靴とベース木型について、それぞれの特徴をお聞かせください。

「まず『wan(ワン)』に関してですが、これはオーストリアの靴職人から譲り受けた1930年代の英国製の木型を参考に開発しました。トウ周りはその木型の形を活かしながら、踵周りや甲部は自分たちでつくりこみました。『Nomachi(ノマチ)』は『ワン』をベースに調整した木型です。こちらのほうが甲を削っています。その一方でトウにはボリュームをもたせています。これは自分たちが考えるオックスフォードのイメージです」

「実は当初、キャップトウオックスフォードのモデルをつくるつもりはなかったんです。素晴らしいキャップトウオックスフォードをつくられる工房は他にたくさんあるので、『自分たちがつくってもどうなんだろう』という思いがありました。ただ、自分で履くのにはいいかなと思ってつくっていたんですよね。それがだんだんとこだわりが出てきて、試行錯誤しているうちに、工房にいらした方にも『いいね』と言っていただくことも増えて。結果的にMTOのモデルにすることになりました」

「シングルステッチ、エッジの折り込みといったディテールは、ヴィンテージシューズを参考にしています。キャップは乗せていますが、乗ってる感が出ないように、かなり剝いて繊細な感じにしています。木型的には1の甲のアウトサイドを削って、『ワン』と違って小指の基部からボリュームが出てくる感じにしています。足入れ感は『ワン』の感触が『ノマチ』でも味わえるように、関係者内で履いてチェックして、木型に反映していきました。新しいモデルは、名前はまだありません。木型は『ノマチ』ベースでトウシェイプ違い、変更はトウ形状だけでフィッティングは変わりないようにしています。トウのフォルムはヴィンテージを意識しています。ヴィンテージシューズは1940年代に惹かれるものが多いですね。一時は10数足持っていたこともありましたが、靴づくりをやっているうちに、革や道具に変わっていきました」

MTOのためのフィッティングシューズ。アーチサポートのある履き心地は独特。

ーベースラストづくりにかかった期間はどのくらいですか。苦心した点などありますか。

「最初の木型(『ワン』の木型)づくりには1年ぐらいかかりました。とくに木型の底面形状は難しい。オーダーメイドのインソールをつくってもらって勉強もしました。MTOの靴を履いていただいているお客様からは、アーチサポートがいいというお言葉をいただくことがあります。最初は試してみた感じでした。内側を絞っているほうが見え方もいいので、その効果もあってのアーチサポートです。また、シャンク位置の設定もそのあたりなので、シャンクによってアーチの形状を保持できるようにもしています」

ーデザイン等についてはどのように決めたり、つくったりしたのでしょうか?

「『ワン』の時は、最初は3アイレットのVフロントかなと思って進めていたのですが、結局行き着いたのは5アイレットのVフロント、羽根は無双縫いという形。つくっているうちに導かれる、しっくりくるデザインというのはあると思います。『ノマチ』の時はかなりヴィンテージの靴を参考にしましたね。例えばタックゼック(トゥーシェック)とか、ヘンリー・マックスウェルとか」

オーダーを受ける際に片岡氏が描いた絵。細部の仕様やデザインなど、ビスポークの際にはこうした絵は有効だ。

ー新作のモデルについて、そのポイントをお聞かせください。

「第3弾のMTOも、いろいろとつくってみたのですが、この形に落ち着きました。これは足元をかっこよく見せたい人にお薦めです。フルブローグはデザイン的に要素が多いので、もう少しシンプルな感じが欲しくて、ヴァンプラインのブローギングはあえて無くしています」

ーオーダーの進め方などをお聞かせください。

「それぞれのモデルのフィティングシューズを履いていただいて、サイズを確認します。基本的に採寸はありませんが、データがあったほうがいいと思ったときには、採寸するようにしています。フットプリントもとります。フィッティングシューズを履いていただいた際には、歩いていただいて、足あたりを確認します」

採寸やフィッティングの際にはフットプリントもとる。MTO でも用いることがあるという。

ー木型調整などはありますか。

「乗せ甲などの木型調整は行なう場合があります。またアーチサポートに関しても、革をあてて、サポート感を緩やかにすることはあります」

ー他にMTOに関して、独自の取り組みなどありますか?

「工房に来ることができないお客様に、フィッティングシューズと調整用のインソックなどをお送りして履いていただき、問題点が大きくない場合はそれでオーダーをお受けするリモートサービスもあります」

photographs_Satoko Imazu
〇 LAST issue21 より


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