NICENESS×forme マスターピースを超えて。

『フォルメ』のアトリエにて、納品前の靴「Chet」を確認する『フォルメ』デザイナー小島明洋氏(右)と『ナイスネス』デザイナー郷裕一氏(左)。

クラフト的なものづくりへの視線を持ちながら現代性を備えたアウトフィットを生み出す『NICNESS(ナイスネス)』。今回デザイナー郷裕一氏が初めて靴をつくるべく協業したのが『forme(フォルメ)』の小島明洋氏だった。仕上がりの靴を前に、両者にその経緯について聞いた。


──今回のコラボレーションのきっかけは?

郷裕一 僕のビジネスパートナーがグラフィックやデザインをやっているんですけど、その彼が、小島さんと知り合いだったんです。

小島明洋 浅草の地場産業を見学に来られたことがあって、その時にちょっと話して。

 その後靴をやりたいという話をしていたら、いい人がいるよって。こちらの無理な要望にも応えてくれるんじゃないかと。

小島 取引先のバイヤーが着ていたりして、僕は『NICENESS』のことを知っていたんです。あとワイルドシルクのデニムを使っていて、僕もその頃ワイルドシルクの生地を使った靴をつくっていたので、相通じるものを感じていました。展示会に来ていただいて、サンプルつくろうという話になって。当初バスケットボールシューズを、ということだったので、それをただ革でつくるのだったら面白くないかな、と言ったら、全くそういうことではなくて。

 頭の中にあったのは、バスケットボールシューズでもごく初期のもの、1920年代あたりのイメージです。あと僕がこだわっていたのが、トウの丸みということと、10ホールのスタイル。往年のものの、紐をぎゅっと結ぶ感じ。それは10ホールじゃないとできないので。

小島 僕はこのデザインでドレスシューズを、といわれたのが頭に残っていて、ドレスにできるだけ寄せることを意識しました。あとはキャップのバランスですね、小さすぎるとモンキーブーツのようになってしまうし、大きすぎるとかわいくなってドレスらしさが薄らぐので。

 それと、バスケットボールシューズは結構ステッチが多いのですが、今回の靴ではあえてステッチを少なく、ほんとに重要なところだけを残して、という感じに。

小島 トップラインもまっすぐにして、シャフトはちょっと後傾に、飾りのステッチはわりと直線的なステッチにしました。実際のバスケットボールシューズはもっと柔らかい感じのステッチなんです。

 ひとつひとつの部分で職人さんが違うということを、後から小島さんに聞いて。そのことがこの靴のすごさを物語っていますね。

小島 僕は過去OEMでファッションブランドの靴を何回か手がけているんですけど、『フォルメ』と同様の生産背景は使えないことが多い。なぜかというと価格設定が違うからです。こだわれる部分も少なくなる。でも今回は最初にその話がなくて、わりと僕が好きなように出来たんです。だからすごい楽しくて。

 自分のブランドは「いいものはいい」というコンセプトで、値段は後から考える感じです。小島さんにも、ほんとにいいものをつくりましょう、とお話ししました。

小島 モノをつくるベクトルが全然違いましたね。お話を伺って、じゃあこういう風にしましょうという選択肢が、いままでだったら切り捨てなければいけない部分が多かったのですが、今回はちゃんとできたというか。ファッションブランドとしてはかなりオーバースペックかもしれません。手づりで、手製というのは。ただ僕も最初からそうしようと思ったわけじゃなくて、結果的にそうなった。

──アッパーのレザーは黒のみで、ということでしたか。

 そうですね。最初から黒一色でと。でも今後バリエーションも考えています。今回もキャップをゴートスキンにしたものがあります。

小島 アッパーの革、最初からワインハイマーいっちゃったんだよね。

 この後何にするか、ちょっと困るかもね。やっぱり(ハインリッヒ・)ディンケラッカーとか、あのへんクラスのものをやりたいというのが最初からあったから。

小島 郷さんコストのことほんとに考えているのかな、って心配してましたよ(笑)。


photographs_Hirotaka Hashimoto
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌『LAST』issue.19 「NICENESS×forme マスターピースを超えて。」より抜粋。

タイトルとURLをコピーしました