TIME FOR BOOTS ブーツの季節へ。

朝晩の空気が肌を刺すようになると、気になり始めるブーツ。その魅力を靴職人に語ってもらった。

靴職人に聞く、ブーツの美とつくりのこだわり。

 ブーツにおける特徴やキャラクター、そこから生まれる魅力とは。お話を伺ったのは、ブーツを中心にビスポークの靴づくりを行う『T・シラカシ ブートメイカー』の白樫徹哉氏。白樫氏のブーツづくりの起点はダービー(外羽根)のカントリーブーツで、それは白樫氏の趣味がフィッシングということもあり、そのスタイルに馴染みがあったからという。「野外などで活動するための、長時間着用の靴は、調節しやすいダービーのブーツが望ましいと思います」と白樫氏。そのデザインは1940年代の英国ビスポークのミリタリーブーツを範としている。活動するための靴ということで、ラストシルエットは足指の動きを圧迫しないよう適度な厚さと足幅をとったラウンドトウ、そしてシャフト部は屈曲時を考えて履き口に手の小指1本分の余裕を設けるという。特筆すべきディテールとしては、着脱がしやすいようトップライン後部にはジャグハンドルがつき、レースホールは紐をしめ上げやすいよう表ハトメ、小石などの侵入を防ぐ「ウォータータイト・タン(袋ベロ)」を採用し、さらに踵まわりのスティッフナー(月形芯)は設計の位置からずれないようにステッチで固定されている。また縫合してソールを外れにくくするよう全周ウェルトになっている。「すべてに理由があって、デザインになっています。それがブーツの面白さ、そして美しさではないでしょうか」と白樫氏。文献や過去の靴を研究して製作し、その後白樫氏自らが野外も含め実際に履くことを通じて仕上げたこのブーツには、強い「説得力」がある。

『T. Shirakashi Bootmaker』の基本ともいえるカントリーブーツのオーダーサンプル。厚手の革を使ったアッパーに、さらにダブル(二重)に革を重ねたキャップトウは、トウパフ(先芯)も含めるとその厚さは6ミリほどになるという。このアウトソールはダブルソールだが、現在は5/16インチ(約6.5ミリ)の英ベイカー社製のオークバークを使って、堅牢性と適度な屈曲性を兼ね備えたシングルソールも推奨している。アイレットは9ホールが基本形で、体格とのバランスで7ホールを薦めるケースも。靴全周に配されたストームウェルトは、しっかりとロウを入れて強度を高めている。¥430,000〜(オーダー価格・ツリー付き)

ブーツのディテール

SOLE  ソールの仕様

右が通常のカントリーブーツの底面で、スクエアウエスト仕様で幅広、ヒール底面は大きめで、ブレスト(アゴ)がフラットになっているのは乗馬機会を想定したことの名残。左はよりタウンユースを意識した仕様で、インサイドはベヴェルドウエスト、ヒール形状もドレスシューズ同様ラウンドしたブレストの形状になっている。

DETAIL&DESIGN  デザインとディテール

ビスポークによるブーツづくりにあたって、白樫氏が参照したのは英国の古い文献。その中にはサイズに対するシャフトの比率なども詳細に書かれている。こうした数値をベースに、顧客の足にあわせて調整しながらつくられる。左はウォータータイト・タンの様子。このようにタン部とレースステイ(羽根)が縫い合わされている。

MAKING  メイキング

目に見えないところにもブーツならではのつくりがある。インソールも英ベイカー社のオークバークを使用しているが、通常の靴の場合4〜5ミリの厚さのところを、白樫氏のブーツでは6〜6.5ミリの厚さのものを使っている。そのほうが吸湿性が良いそう。また、すくい縫いの麻糸もより多くの本数を撚っている。インソール底面のチャネル(溝)はしっかり縫えるよう深めに。

UPPER LEATHER  アッパーの革

靴の場合、アッパーは1.2〜1.3ミリ程度の革を使うが、白樫氏のブーツでは1.5ミリ程度の厚さの革を使っている、写真はカントリーブーツ向けに白樫氏が推薦する革。右は英ベイカー社の「ワックスド・カーフ」で、少々の傷はボーン(骨)でこすって消えるという。左はフランス産のクロム鞣しのイングリッシュグレインで、水に強い。

VARIATION  その他のブーツ

右は「ガロッシュ・ブーツ」と呼ばれる内羽根のブーツで、ラストシルエットなどはドレスシューズ同様につくられる。¥420,000〜(オーダー価格、ツリー付き)。左はハンドソーンのモカステッチが配された「エプロンフロント・ダービーブーツ」。¥447,000〜(オーダー価格、ツリー付き)。ビーバーテイルハンドルのシューツリーも選ぶことができる。

T. Shirakashi Bootmaker  白樫徹哉氏
グラフィックデザイナーから、靴学校、靴職人の工房を経て独立。現在はブーツを中心にビスポークの靴づくりを展開する。仮縫いは基本1回で、納期は6〜12ヶ月。


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photographs_Hashimoto Hirotaka
text_Yukihiro Sugawara
◯「LAST」issue19 /『
TIME FOR BOOTS ブーツの季節へ。』より抜粋。

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