「RE」をめぐるさまざまなアプローチ。
1. リクチュール 廣瀬 瞬さん

サステイナビリティやSDGsの考え方には、ゴミや廃棄物を少なくするために、人間が生み出したものを再利用、再活用していこうとする方向性も含まれる。ではそれは革靴においてどういった形で具体化され、行われているのか。
ここでは「RE」つまり「再生」というテーマを、それぞれ異なるアプローチを追求している3人の担い手を訪ね、その考えを聞いた。


【RE-Make】
Recouture
リクチュール

リクチュール
住所. 東京都渋谷区渋谷 2-4-4
tel. 03-6419-7530
営業. 11:00〜20:00 水木休
HP. http://recouture.thebase.in


ぼくはカスタムこそがクリエイティヴだと思う。

「スニーカーのカスタムを始めたのは、サステイナブルなんて崇高な目的があったからではありません。服の再構築をキーワードとしたメゾン マルジェラが昔から好きで、いってみれば DJ のサンプリングのノリから生まれたアイデアでした。そもそもいまの時代、0からなにかをつくりあげるなんて幻想でしょう。どんなブランドだって元ネタはヴィンテージだったりする。カスタムは組み合わせることで新しい価値が生じる。そっちのほうがよほどクリエイティヴじゃないかと思ったんです」

店に飾られたカスタムスニーカー。ウェルトをつけ、ブラックラピドかステッチダウンで仕上げる。最近はアッパーをコードヴァンなどに載せ替えるカスタムも好評を博している。

 廣瀬瞬さんは日大理工学部を2年のときに退学した。建築がやりたかったが、くだんの学科には点数が足りなく、仕方なく進んだ土木科だったからだ。暇な時間ができた廣瀬さんが選んだ勤め口はリアット。靴修理のチェーン店だ。母親がその系列のマジックミシンで働いていたから、という消極的な理由だった。

 なんとはなしに始めた仕事だったが、これが面白かった。元来手先が器用だったこともあり、時間を忘れるほどにのめり込んだという。

「敵を倒してレベルアップしていくゲームの感覚で楽しめました」

 ところが半年でクビになってしまう。接客態度の悪さにオーナーが三行半を突きつけたのだ(廣瀬さんの名誉のためにいっておけば、職人気質なだけで、人間はちっとも悪くない)。仕方なく近所の牛角で働き始めた。時給は850円だった。

 そんな折、リアットの上層部から声がかかる。売上げが悪く店をたたむといっているオーナーがいる。ただ、契約上3ヶ月は閉められない。そこを仕切ってくれないか、というものだった。聞けば時給は1250円。廣瀬さんは二つ返事でリアットに戻った。西荻窪のその店は、あっという間に採算に乗った。

「牛角のおかげで接客が多少ましになったようです(笑)」

 廣瀬さんはその功績が認められて20歳の年に史上最年少で FC のオーナーになった。数年後には武蔵小金井にもう1店出店、人も雇った。周りからは「君ほどうまい職人はいない」と褒めちぎられた。

 順風満帆な船出だったが、ほどなく座礁する。廣瀬さんの技術の源はほとんどが最初の3ヶ月で得たものだった。自分なりに試行錯誤するも限界がある。広瀬さんは靴職人の五宝賢太郎さんが主宰する埼玉のワークショップに通い始めた。

「1から10までつくりあげる靴づくりは圧倒的でした。ぼくは夢中で五宝さんの技術を学んでいきました。そのうち自分の店をもちたい、という欲求が芽生えました」

 そうして26歳の年にオープンしたのが靴修理の国分寺シューズだったが、意に反して売上げは伸びない。手慰みにつくったのが、ヴィブラムソールを履かせたコルテッツ。

「あるときスニーカーを履きたいと思ったんですが、それまでブーツばかりだったぼくに既存のスニーカーはボリュームが足りない。ウエルトをつけて、ブラックラピドで仕上げてみたら悪くない。ちょうど店の宣伝にインスタを始めたばっかりだったので、試しに載せたら想像もしなかった反響があったんです」

 いまやカスタムの売上げは9割を占めるまでに。客の7割は外国人だ。

アディダスのプロジェクト、adidas MakerLab に選ばれて(世界で3人!)つくったモデル。4色のアッパーを解体、ミスした製甲のような仕上がりに。ベースモデルはキャンバス80s。

意味のあるサステイナブルを

 最近はサステイナブルも意識するようになったと笑う廣瀬さんだが、昨今の風潮には疑問もある。

「裁断するのにカッターじゃなくて革包丁を使う人がいます。カッターは刃がこぼれたら折って捨てないといけないからです。革包丁なら研げばいい、というわけですが、はたして捨てた刃先がどれだけ環境に負担をかけているのか。そういう人は一切ものを捨てないんでしょうか」

 渋谷に構えたアトリエは築60年は経とうかという木造家屋を1ヶ月かけてみずから改装したもの。天井を抜いた屋根は真っ白に染めた。

「マルジェラが好きなんで(笑)」

数着のヴィンテージウェアをバラし、縫い合わせたシャツ。再構築をテーマにしたコレクションで、ほかにトニーラマなどのウェスタンブーツをモチーフにしたブーツやバッグがある。

お話を伺った方
廣瀬 瞬 さん
日本大学理工学部中退。靴修理チェーン、リアットの FC 店のオーナーを経て2013年に国分寺シューズをオープン、18年にリクチュールに店名変更、19年に渋谷へ拠点を移した。


photographs_Hirotaka Hashimoto
text_Kei Takegawa
○雑誌『LAST』 issue18 『Leather Shoes and Sustainability Grapple with “RE” 「RE」をめぐるさまざまなアプローチ』より抜粋。

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