ドレスシューズの担い手たちが追求する、ドレスとリラックスの融合の実際とは。具体的な取り組みを取り上げ、そこに込められた思いや創造性を考察する。
必然的なラインと意匠が、新しいスタイルへと変化するとき。ヒロ・ヤナギマチ 新しい形状のローファー。
近年多くの担い手が登場し、世界的に見ても活況を呈している日本のビスポーク&オーダーメイドの靴づくり 。その盛り上がりを初期から担ってきたのが、「HIRO YANAGIMACHI Workshop(ヒロ・ヤナギマチ・ワークショップ)」を主宰する柳町弘之氏 だ。そして彼の作風を代表するモデルのひとつとして靴好きの間で知られているのがローファー 。センターで 縫い合わされたサドル部は、従来のサドルストラップローファーとは一線を画す、新しい形状といえる。
構造の新しさから導かれたセンターシーム。
サドルストラップではないローファーへの模索の結果行き着いたセンターシームのディテール。写真右が最初のローファーで、左が発展型のドレスローファー。トップラインのディテールも、右がデッキシューズを範としたフレンチバインディング、左がドレスシューズ的なビーディング仕立てと変えている。
「原型は、私が英国のコードウェイナーズカレッジ(靴の学校)にいた時に、すでに描いていました。サドルストラップを使わないローファーがつくれないかと、クォーターをヴァンプへと伸ばし、さらにセンターで縫えばちょうどレースアップシューズの外羽根のような役割になると思いつきました」と柳町氏。さらに氏は、 縫い合わせたサドル部分の両脇に、ダービーモデルのレースステイなどに見られるステッチを施した。「見慣れたものの部分がどこかに入っていると、デザインに落ち着きが出るものなんです」。
進化するエレガントなローファー。〝無駄がなく、必然があって見たことのないもの〞
次に柳町氏はよりエレガントなローファーを求める人に向け、このスタイルを進化させる。サイドのヴァンプ部の切り返しをなくし、スキンステッチのスプリットトウにしたのだ。さらにモカステッチにはハンドソーンのライトアングルステッチを採用した。「ヴァンプからクォーターにかけて一体になっているのがエレガントだと思いました」(柳町氏)。ちなみにサドル部のセンターシーム等は最初のローファーとの関連として、そのまま残している。「パターンとして無駄がなく、必然があって見たことのないもの 」。柳町氏がこれらのローファーに関して使った表現は、そのまま氏のデザイン哲学といえるだろう。さらに「普遍的に残っている線が、クラシック感につながる」とも。工房がスタートして17年、当初から存在するこのローファーは、もはやクラシ ックなスタイルと呼んでいいかもしれない。
カジュアルからドレスへ、スタイルと意匠の変化。
カジュアルなローファーとして考案されたスタイルは、クォーター部の切り返しをなくすことで、よりすっきりとエレガントなドレスローファーのラインに進化した。ラストやソールのコンストラクションもスタイルの変化にあわせ変えている。
いずれもビスポークのみの展開。カジュアルローファーは ¥185,000〜+ビスポーク代 ¥180,000、ドレスローファーは ¥195,000〜+ビスポーク代 ¥180,000。オーダーのプロセスや納期などはオーダー時に要相談。
photographs_Takao Ohta
〇 雑誌『LAST』 issue.12 より
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