風が頬を刺激する時期、気になるのは冬を過ごすコートのこと。ではコートと靴の合わせ方とは?レジェンドのスタイル、コートのつくり手たち、そして着こなしの達人たちを通して、旬の装いを考えた。
レジェンドの「コートと靴」スタイルをプレイバック
テーラーが提案する「コートと靴」の組み合わせ
『Sartoria Ciccio(サルトリア・チッチオ)』 イタリア帰りのテーラーによるソフトなチェスターコート。
イタリア・ナポリでテーラーの修業を積んだ「サルトリア・チッチオ」の上木規至さん。彼の服はナポリの柔らかさを求める服づくりと、日本的な緻密さを融合させたものといえるだろう。そんな彼が提案するのが、ネイビ ーのカシミア100%の生地を使ったチェスターフィールドコート。昨年このコートをオーダーした顧客がいて、それまでよくつくっていたラグランのコートとはまた違った、新鮮な印象を受けたという。そしてこのコートに 合わせる靴として挙げたのが、親友である深谷秀隆さんのブランドのローファー。「コートの中はどちらかというとカジュアルな感じにしたいんです。ジーンズにホワイ トシャツ、それにローファーとかで、袖のボタンも外して、休日にあえてこういうコートを着る感じがいいですね」と上木さん。その抜け感がイタリア的ということか。
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サルトリア・チッチオ
東京都港区南青山5-4-43
tel:03-6433-5567
http://www.ciccio.co.jp
『LID TAILOR(リッド テーラー)』 チャールズ王太子から着想したバックベルトつきチェスター。
東京・西荻窪の『リッド テーラー』はブリティッシュを基調に、日本人の体格や雰囲気に合ったスタイルを実現するテーラー。店主の根本修さんが提案してくれたのは、バックにベルトを配したチェスターフィールドコート。生地はテイラー&ロッジ「ラムズ・ゴールデンベイル」 のカシミア、色はチャコールグレー。実はこのコート、英国のチャールズ皇太子が着ているものから着想したという。コートに合わせる靴は、根本さん所有のフォスター&サンのセミブローグスリップオン。「袖にカフがついたり、ベルトがあったり、実はそこまでフォーマルなコートじゃない。でもフォーマルよりの着こなしのほうがかっこいいと思うので、フルブローグよりもキャップトウを選んでいます。レースアップだとちょっと重くなりすぎるので、スリップオンで」とは根本さんの弁。
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リッド テーラー
東京都杉並区松庵3-31-16 #103
tel:03-3334-5551
『batak(バタク)』 往年のアクアロックをリヴァイヴァルさせる試み。
「Aquarock(アクアロック)」とは、かつて英国海軍の高級将校がビスポークウェアとして着ていたネイビーカラーのコートの名称。現在もまれに古着でみかけることもあるこのコートを、バタクでは防寒コートとしてアレンジして製品化。バタクが所有するアーカイヴをベースに、ウール・コットンのギャバジンを新たに開発した。仕上げをきれいにしすぎないことで、ミリタリーウェアのタフな質感を再現している。デザイン上の最大の特徴は、ウエスト部で内側に入っているコンシール・ベルトで絞ることができること。これによりバックにドレープが生まれる。このコートに合わせる靴として、バタクの中寺広吉さんが挙げたのはパンチドキャップトウ。ロイヤルネイビーゆえにプレーンダービーがユニフォームなところを、街着としてアレンジした着こなしという。
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バタク日比谷
東京都千代田区有楽町1-2-14 紫ビル2F
tel:03-5510-6902
『COHÉRENCE(コヒーレンス)』 デュシャンのポートレートから具体化されたタイロッケンコート。
往年のレジェンドたちのスタイルから着想した「コート」を展開する「コヒーレンス」。クリエイティブディレクタ ーの中込憲太郎さんが旬のコートの着こなしとして選んだのは、タイロッケンスタイルのモデル「MUTT」。 MUTT とはマルセル・デュシャンの偽作者名。マン・レイ撮影の写真でデュシャンが着用していたコートの襟や袖の仕様を、ミリタリーのモーターサイクルコート等に見られるタイロッケンスタイルに落とし込んでいる。生地はネイビーのタテ糸とブラックのヨコ糸を交織したミッドナイトブルーのスーピマコットンギャバジン。そこに合わせる靴は、中込さん所有のオーベルシーのプレーンダービー。アンソニー・クレヴァリー由来のスクエアトウと『勝手にしやがれ』のベルモンドの靴を思わせる丸いレースステイの組み合わせがノーブルな印象。
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コヒーレンス
http://co-herence.jp
ファッション識者が着こなす「コートと靴」
矢部克已さん ミラノ仕立ての重量感あるポロコート。
各男性ファッション誌で活躍する矢部克已さん。自他ともに認めるイタリア通の彼らしく、その装いもほとんどイタリア・メイド。毎年袖を通すというダブルのポロコートは、ミラノのサルトリア「Tindaro de Luca」にて 2012年に仕立てたもの。ネイビーヘリンボーンの生地はヴィンテージのドーメルで、意外に重量がある。生地のせいか袖山も大きいしっかりとしたつくり。袖つけは、片袖でなんと4時間を要するそうだ。そこにチェスナットカラーのエドワードグリーン「RYE」を合わせている。スーツはフィレンツェのリヴェラーノ・リヴェラーノによるグレイストライプ柄のフランネルスーツ。「着こなしのポイントは、ネイビーとグレーの組み合わせの中で、茶色をどう効かせるか」と矢部さん。
尹 勝浩さん コートにはブーツがよく似合う。
小誌ではもうおなじみの、ビームスのファッションディレクター尹勝浩さんのコートは、12~13年は着ているというイタリア「サルトリア・ パルマ」の、カルロ・バルベラのカシミア混生地を使ったアルスターコ ート。背中のベルト部はインバーテッドプリーツになっている。靴はブラウンスエードのエンツォ・ボナフェの「グラント」。さらにインナーには尾州のウールデニムでつくったスーツを合わせている。「冬こそコートとブーツを合わせたい。その時デニムは相性がいいんです。ボヘミアン風というか、ビートルズの『アビーロード』ジャケットの4人がひとつになったような着こなしが気分ですね。コートを仰々しくなく楽しんで着たいです」と尹さん。
山本祐平さん 映画「シャレード」のコートを再生する。
「シティ・マナーが大切」と語る山本祐平さん。山本さんが店主を務めるテーラー「ケイド」がアメリカントラディショナルを追求するのも、街に生きる男たちに、そのスタイルがスポーティで合っていると考えるからという。そして、そうした考え方を反映したコートとして今回新たにつくったのが、コットンポプリン一枚仕立てのステンカラーコート。ベースとなったのは『シャレード』でケーリー・グラントが着ていたものだ。「空気を含むような分量感が重要」と山本さん。Aラインで袖も太め、そして着丈も膝が隠れる程度と長い。このコートにオールデンのタッセルスリップオン、グレイシャークスキンのスーツ、さらにニットタイを合わせて、スポーティな街の着こなしが完成する。
尾崎雄飛さん どこか機能性由来なコートの装い。
「機能性、機能を反映したアプローチが大事だと思うんです」と語る尾崎雄飛さん。そんな尾崎さんが「いいとこどり」と称する今季の「サンカッケー」のコートは、カシミア混のメルトンを使った、ライディングコート風のシルエット。袖口にはブラックレザーのパイピングがあしらわれて、おなじみの胸のジップポケットとともに、確かに機能性を感じさせる。靴はサンカッケーとフラテッリ ジャコメッティのコラボレーションによるエレファントレザーのサイドゴアブーツをチョイス。「象革は水に強いと聞いたので、ヴィブラムソール仕様にしています」と尾崎さん。裾幅太めのパンツと相性がいい。インナーにはチャイナシャツを選んで「抜け」感を付加した着こなしに。
photographs_Takao Ohta,Tomonori Nishigori
〇 雑誌『LAST』 issue.13 より