LASTが注目する個性的かつスタイリッシュな装いで知られる各界で活躍する方々に、「あなたにとってのベーシック」、「いま履きたいベーシック」な靴を聞いていく。
今回お話を伺ったのはデザイナーの草野健一さん。草野さんが惚れ込んでいるのはオールデン。ファッションという範疇を超えて、スタイルまで昇華した瞬間とは。
ファッションではなく、アメトラというスタイルを体現する靴。
待ち合わせたのは、神保町にある草野健一さん行きつけの喫茶店、神田伯剌西爾だった。「神保町は独立して3年、事務所を構えた思い出の街です。エチオピアでカレーを食べて、ここで一服して、マグニフで写真集を探す、というのがルーティンでした」
その日草野さんが履いていたのは、オールデン。ベースはセムというパリの見本市に出展しているときにつくられたモデルだそうだ。「惚れ込んで仕掛けた別注です。スコッチグレインとシェルコードバンのコンビに変更しました。ところがこれがさっぱり売れなかった(笑)。ミリタリーラストがもてはやされていた時代ですからね。しかし80年代が見直されるいまみれば、しっくりくる」
アメリカ東海岸、そしてオールデンを愛する草野さんの骨格がつくられたのは、ビームス プラスの立ち上げに携わってからだった。「正直、当初はオールデンの良さがわからなかった。見方が変わったのは実際に工場に足を運ぶようになってから。古き良きものづくり、オーソペディで培われた履き心地もさることながら、打ち合わせのテーブルにつく社長、副社長の装いに感銘を受けた。彼らはいつだってネイビーのブレザーにボタンダウンのシャツ、レジメンタルタイ、グレイのトラウザー、そしてオールデン。オールデンはファッションではなく、スタイルなんだと知った瞬間でした」
ひとつところにとどまりたくない、という草野さんはビルの取り壊しに伴い、京都に拠点を移した。神保町と京都に共通するのは伝統をしっかりと守っているところであり、それは草野さんのスタンスにもいえることだ。神保町にオールデンはよく似合う。
Kenichi ‘Kenny’ Kusano(草野健一) プロフィール
熊本生まれ。ビームス プラスのディレクターを務めたのち、2012年にケネスフィールドを始動。“for NEW TRADITIONALIST”をコンセプトにアメリカン・トラディショナルをアップデート。2014年、THE LATEST FASHION BUZZに選出される。バラクータ ブルーレーベルも手がけた。
text_Kei Takegawa, photographs_Yoshihiro Tsuruoka
〇 LAST issue17 より