靴技術が反映したつくりと、他とは一線を画すデザイン性で人気の『forme(フォルメ)』。その最新モデルから、同ブランドの魅力と真価を解題する。
浅草の製靴技術を駆使した独創性、アイデア
東京・浅草で継承されている製靴技術を駆使しつくられているという『forme(フォルメ)』の靴。その一方で、同ブランドの靴はクラシックな靴という範疇に止まらない、独創性、アイデアが盛り込まれている。例えば、2024年春夏展開のモデルとして発表された「Gwen」は、一見ホールカットのスリップオンだが、甲部にサドルストラップを思わせるステッチが配されている。
「これは自分が普段行なっている、木型の上にデザイン線を乗せる行為を、ステッチワークで、実際の靴のデザインに置き換えたものなんです」
こう説明する『フォルメ』デザイナーの小島明洋氏。過去の展示会で、デザインプロセスを解説していたところ、線が描かれた木型に強い関心が集まった。そこで試行錯誤している線も含め、実際のデザインに置き換えてみることを着想したという。
「例えば内羽根の靴をつくる時、このスタイルの歴史を遡ってみるわけですが、その過程で当時なぜこうしたデザインが生まれたか、必要性が見えてきます。そして、19世紀と現代とでは必要とされることは違い、履くシーンも異なるので、今ならどのようにつくるかと考え直すのです。それはクラシックなデザインをそのままつくるのとは違います」
自身のシューズデザインについて語る小島氏。
その一方で、靴づくり自体についてはオーセンティックなものを堅持するとも。「現代に残る靴づくりのさまざまな事柄は、必要があって、意味があって残っていると思います。ちゃんと靴をつくろうと思ったらそのようになっている、ということです」
そう語る小島氏の案内で、『フォルメ』のアッパーを手がけるクローザー(製甲工房)と、つりこみやソールまわりを担当する自社工房を訪ねた。
『フォルメ』を熟知した職人による、確かな技術。
『フォルメ』のブランドスタートからずっと製甲を担当している、藤田綾子氏(奥)と内山美菜子氏(手前)。ともに15年以上のキャリアがある職人だ。また、この「Gwen」に関しては、藤田氏が小島氏のデザインをもとにパターンも製作している。取材に伺った際には、内山氏が「Gwen」のアッパー製作の作業を行なっていた。パイピングの裏側の始末や、独特なステッチワークなど、一連の作業が内山氏の手で行われていた(写真左)。
今回の「Gwen」に関してはクローザーが小島氏とやりとりする中で、パターンが仕上がったという。甲部のステッチは、1本目はあらかじめ線を引いているが、2本目は1本目の線をもとに、職人が見当で縫っていく。その淀みない作業からは、靴のデザインや意図に対する深い理解が感じられた。
自社工房によるハンドラスティング&ハンドフィニッシュ。
『フォルメ』に入って3年という町田有氏。靴修理も含め、底づけの職人としてのキャリアは13年ほどという。左の写真のように町田氏の手作業で、カウンターなどを入れたアッパーとインソールを木型につり込んだ後、外部工房による機械によるすくい縫いと出し縫いを経て、再び町田氏がコテがけなど底周りの仕上げを行う。町田氏の加入と自社工房の設立で、靴づくりの品質とキャパシティは大きく向上した、と小島氏は語る。現在自社工房での底付けは町田有氏と大澤春平氏の2名が担当している。
また自社運営の工房では、ハンドラスティング、機械を使わず手作業で木型にアッパーをつりこむ作業が行われていた。「場所によって力の加減を変えながら、木型に沿わせ、デザイン通りの形になるよう引いて(つりこんで)いきます」一足20分程度でテンポよく仕上げる職人の言葉にもまた、小島氏と同じイメージを共有し、作業する姿勢が感じられたのだった。
● LAST issue25より
photographs_Takao Ohta, Satoko Imazu
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