サステイナビリティやSDGsの考え方には、ゴミや廃棄物を少なくするために、人間が生み出したものを再利用、再活用していこうとする方向性も含まれる。ではそれは革靴においてどういった形で具体化され、行われているのか。
ここでは「RE」つまり「再生」というテーマを、それぞれ異なるアプローチを追求している3人の担い手を訪ね、その考えを聞いた。
【RE-Create】
H. Katsukawa
エイチ・カツカワ
エイチ・カツカワ/シュー・オブ・ライフ
住所. 東京都目黒区大橋 2-22-4 増本ビル1F
tel. 03-3467-8766
営業. 10:30〜20:00 水休
HP. http://hkatsukawafromtokyo.net / http://shoeoflife.blogspot.com
“正しい” はひとつじゃない。
皮は大別して表皮層、真皮層、皮下層にわかれる。表皮層は石灰作業、皮下層は鞣製後の裏打ち作業によって除去される。残った真皮層が、おなじみの革になる。本来はコラーゲンやゼラチンの原料、あるいは工業用資材として利用される皮下層をアッパーに生まれ変わらせたのが勝川永一さんだ。その革の名は、ニベレザー。ニベを漢字に直せば膠。にかわとも読む膠はゼラチンを主成分とする接着剤のことをいう。
「 “正しい” はひとつじゃないということを伝えたかった。職人にとって “正しい” のはカーフレザーです。歴史が証明しているように、カーフが優れているのは間違いのない事実でしょう。だけど、それがすべて、というのはいかがなものかと思っていた。ブランドを立ち上げるべく奔走していたころ、わたしの目にとまったのは革屋さんの奥に転がっていたささくれ立った革クズでした。荒々しい風合いにわたしはいっぺんで虜になりました。あの風合いが再現できないものか。足を棒にして姫路のタナリーにたどり着き、ニベレザーは誕生したのです」
自己主張できるものといえば服と音楽しかなかったと笑う勝川さんは、二浪して大学に入るとさっそくセレクトショップのバイトを始めた。勝川さんはヴィンテージデニムに革靴を合わせる着こなしをこよなく愛し、そして革靴に夢中になった。
卒業後は都内の靴工場に働き口をみつけて就職。充実した毎日だったが、ある日を境に生活は一変する。実家の商売が苦境に立たされたのだ。
勝川さんは逃げるように渡英、職業訓練校のトレシャム・インスティテュートに入学した。いちから靴づくりが学びたいと考えていた勝川さんにとって渡りに船だった。「このまま永住したい」という思いで必死に学んだ勝川さんは首席は逃したものの次席で卒業した。しかし、就職活動はことごとく不首尾に終わった。
「一縷の望みをかけて訪れたのはポール ハーデン。伝説のシューデザイナーです。わたしの下手くそな英語にあっけにとられていましたが(笑)、つくった靴をみせたらインターンとして置いてくれることに」
もちろん無給だ。みるみる手持ちの資金は目減りしていき、半年後には日本行きの飛行機に乗らざるを得なかった。残金は3万円だった。
「期間こそ短かったけれど濃密な半年でした。家族同然の付き合いをしてくれましたしね。デビューを果たしたのち、ニベレザーの靴を見てもらったことがあります。ポールは一言、面白いねと言ってくれました」
ウィットに富んだオブジェクション
「ユニットソールはヒールが一体化されているのでミシンをその手前で止めざるを得ない。これを逆手にとって、いかにも手縫いの途中のようにみせる、というアイデアです」
エイチ・カツカワの特徴といえば、ニベレザーともうひとつ、ソールからぶら下がったステッチ糸だろう。ブランドのキャラクターであるミスターポピー(鼻にたばこを突っ込んだイラスト)のイメージに引きずられてしまうと手技礼賛の風潮を茶化しているようにも見える。機械生産の現場を知る勝川さんの心情には判官贔屓的なところも多分にあるが、そこにはもう少し深遠な思いがある。
ニベレザーといい、始末していない糸といい、それらを通してみえてくるのは多様な価値観を受け入れたいという真摯でやわらかな発想だ。
昨年、真っ白な豚革の靴をリリースした。豚は輸入に頼らず国内でまかなえる唯一の皮革だが、原皮のほとんどは中国に輸出されていた。
「革は食肉文化の副産物。豚革に目をつけたのはその循環の一助になればという思いでした。ただ、きれいに染めるのは苦労しました」
デザイナーでありながら、靴修理の店も営む勝川さんは、ほんとうの “正しい” を体現している。
お話を伺った人
勝川 永一 さん
靴工場勤務を経て渡英。トレシャム・インスティテュート卒業後、ポール ハーデンへ。帰国後、修理職人を経て2007年にエイチ・カツカワをローンチ、10年にリペアショップのシュー・オブ・ライフをオープン。手前の壁にかかった左の靴はノーサンプトン博物館にも収蔵されたニベレザーの作品。右が豚革の新作だ。
photographs_Hirotaka Hashimoto
text_Kei Takegawa
○雑誌『LAST』 issue18 『Leather Shoes and Sustainability Grapple with “RE” 「RE」をめぐるさまざまなアプローチ』より抜粋。