達人たちの「持続性」ある靴。 〜中込憲太郎〜

ブラックカーフの「173」をキーアイテムに構成したスタイリング。『オルビウム』のダブルフェイス・ホップサック生地のアトリエジャケットに。『シャルべ』のストール、中込氏の師匠にあたる職人が手がけたウールギャバジンのトラウザーズ。その上に『コヒーレンス』の「CORB」コートを羽織って。帽子はパリの帽子店『MOTSCH』のもの。

タッセルが持っている2.5枚目な魅力。

中込憲太郎
J.M.WESTON 173 Tassel Loafer

 メンズアウターウェアのブランド『COHÉRENCE(コヒーレンス)』、そして近年ではメンズウェアブランド『ORBIUM(オルビウム)』のクリエイティブディレクターとしても知られる中込憲太郎氏。ウェルドレッサーとして知られる彼に、「手持ちの中でもっとも古く、そして今も履き続けている靴を挙げてほしい」とお願いしたところ、お持ちいただいたのはブラックカーフの、『ジェイエムウエストン』タッセルスリップオンだった。

「15年前に、当時のパリのシャンゼリゼ本店で購入しました。もともとタッセル好きではあったのですが、この173は一見オーソドックスに見えて、ハンドソーンのモカステッチなど、細部にいろいろ特徴があるのがいいな、と思ったのです」

 このように語る中込氏だが、彼のファースト『ジェイエムウエストン』は、リザードレザーの「180」ローファーだった。ただ、その靴を履く機会は少なかったという。

「他の方が履いているのを見ると、すごくいいなと思うのですが、いざ自分が履いている様子を見ると、ローファーという靴の三枚目な存在感が、いまひとつ馴染んでいないように感じたのです」

 そして、タッセルが持つ、大人っぽい雰囲気ながらも、どこか垢抜けないところも感じられる、独特なバランスがいいと中込氏。さらにこの「173」には、既製靴ならではの良さがあるとも。

「長い歴史のあるハイレベルなマスプロダクションが持つ、節度、清潔感めいたものを感じるのです。例えばビスポークの靴には、手製独特の迫力を感じてしまうのですが、この靴には手離れ感というか、いわば恬淡としたところがあるのです」

 中込氏の旅のワードローブには必須というこの「173」。適度にフランクで、適度に失礼がないそのありようが使いやすいそう。「Imperfectly Perfect」、そんな表現がこの靴にも使えるかもしれない。

オールソール修理を2回済ませたという、しっかりと履きこまれたタッセルスリップオン。左右の足がハーフサイズ違うことから、この最初の靴以降はMTOで同社のタッセルをつくっているという。靴は足にぴったりとあわせて、ホーズで履くのが中込氏の流儀。

KENTARO NAKAGOMI
『COHÉRENCE』『ORBIUM』クリエイティブディレクター。往年のレジェンドたちをインスピレーションソースとしたアウターウェアブランド『コヒーレンス』で国内外にて成功を収め、2019年秋冬より、イタリアのファクトリーが手がけるウェアブランド『オルビウム』を展開している。


photographs_Hirotaka Hashimoto
○雑誌『LAST』 issue.18 『達人たちの「持続性」ある靴。/ 中込憲太郎』より抜粋。

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