靴を仕立てる。【ユウキ・シラハマ・ボティエ】

いまや世界的にもその存在が取り沙汰される日本の職人たち。今回は比較的アクセスしやすい東京と関西を拠点としている靴職人をガイドする。


YUKI SHIRAHAMA Bottier
福岡から京都へ、靴づくりの新たな段階へ。

フランスの靴づくりを修め、丁寧な靴づくりを追求する職人は京都で次なる段階へ向かおうとしている。

WORKS
スコッチグレインレザーをアッパーに使ったフルブローグ。オーナーの意向やスタイル加味して、ブリティッシュな雰囲気に仕上がっている。

 2018年、福岡から京都へと移ってきた靴職人・白浜結城氏。福岡時代も大濠公園からそう遠くない好環境だったが、ここ京都でも、錦市場からそう遠くないエリアと、立地としては恵まれているように見える。

「実は、京都という土地に可能性を感じて引っ越してきた、というわけではないのです」と話す白浜氏。この京都が、白浜氏の仕事のいわばハブとして最適な場所にあったということが大きいようだ。現在、白浜氏はビスポークのシューメイキングの傍ら、月に1回、名古屋のスポーツ用品メーカーに行き、商品開発のアドバイザーを務めているという。それに加えてビスポークの顧客も、ストラスブルゴでのオーダー会などもあって、東京や関西圏の在住者が多かった。

 さらに、もともと自身の妻が京都・太秦出身であったり、工房のメンバーとして4年以上一緒に働いていた村吉麻美氏が夫の転勤で大阪に行くというさまざまな事情が重なったこともあり、そこで白浜氏が決断したということのようだ。「なので、京都という土地のメリットを活かせていませんね。海外からのお客様が増えているわけでもありませんし」と白浜氏は苦笑いする。

 もっとも京都移転の理由の一つであるスポーツメーカーとの協業は、白浜氏に大きな影響を与えているようだった。もともとビスポークで顧客の足を見てきた経験値を買われて、フットウェアの開発を手伝うことになったのだが、1万人を超える足のデータを扱ったり、大学などが行う足の構造に関する研究データを知ることは、白浜氏がひとりひとりの顧客を前に行ってきたことの、裏付けになっているという。「ビスポークとは全く違うフィールドなので、楽しさを感じますね」とも。

クロコダイルレザーのクリッキングの様子。使っているのは長田の職人さんの包丁で、愛用していると白浜氏。
奥が白浜結城氏の仕事エリアで、ラストメイクやクリッキング、メイキンなどを行う。手前はアッパーの縫製などを行う村吉麻美氏のエリア。
収まりきれなくなった木型が掛けてある。ここ数年で一気に増えたそう。

 また、白浜氏のビスポークの靴づくりも、少しずつ変化しているようだ。まず、透明な樹脂製のトライオンが採用されて、仮縫いが2回になっている。「昔は仮縫い靴の革を切って中を見たりしていたのですが、いまひとつわかりにくかった。この透明な樹脂のものだと、当たっているところが白くなります。革とは素材が違うので鵜呑みにはできませんが、参考にはなります」と。2回以上の仮縫いで納期は遅くなってしまうが、「初回のオーダーで、仮縫い1回で木型を仕上げようとすることは、自分にとっては難しいですし。真の意味で丁寧な仕事ではないように思います」と明言する。

 この「丁寧な仕事」への姿勢は、すべての工程を工房内で行うという現状の靴づくりに繋がっている。「例えばウェルトを縫うときに、うちのやり方は濡らして叩きながら縫っていきますが、分業した時に、同様のやり方でやってくれるか見ていないと不安ですね。違うやり方だと、その後の工程が全く変わってきてしまいます」と白浜氏。それゆえ、福岡の時からともに靴づくりをしてきた村吉氏には絶大な信頼を寄せる。現在村吉氏は主にアッパーを担当しているが、彼女の手元の分厚いファイルには、実際の革やステッチを貼りつつ、過去に手がけた靴における白浜氏の指示や注意点が事細かに書き込まれていた。ノウハウを共有するということの凄みを見せつけられたようだった。

 神戸のスピーゴラに務めたのち、フランスに渡ってパリのアルタンで彼の地の靴づくりを修め、日本に帰国して自身の靴づくりをスタートした白浜氏。もっとも最近は自身のスタイルを打ち出すことに関して、変わってきているという。「自分がかっこいいと思うものを受け入れていただくか、それともお客様にとって快適なものがあってそれに寄り添うか。どこまでを委ねていただけるのかということの見極めが大切と感じています。そして、仕上がるものは以前ほど自分のラインではないようにも思いますね」と白浜氏。丁寧な仕事の彼方に、もしかしたら新たな地平が、待っているのかもしれない。

村吉さんのファイルのページ。実際の革片もサンプルとして付けつつ、工程やディテールが細かく書き込まれている。
白浜氏の丁寧な仕事を端的に表している、手作業で入れられるソールの模様。
樹脂のトライオンと、その後の革のトライオン。このようにデザインを2種類提案する場合もある。

SHOP INFO
YUKI SHIRAHAMA Bottier

価格・納期などの目安
ビスポーク
|320,000〜
仮縫い2回、納期1年半
木型変更のない場合、2足目以降¥300,000〜

住所:京都府中京区甲屋町 394
電話:075-744-6546
HP:http://ys-bottier.com

※この特集中の価格、納期などはあくまで参考です(2019年4月時点)。素材や製法、各店の状況によって変わることもあり、オーダーをお考えの場合は各靴店にお問い合わせください。なお、表記価格は特記なき場合はすべて税抜きです。
※各店とも、基本的に要予約です。連絡先や各ホームページからご連絡ください。


photographs_Satoko Imazu
photographs_Hirotaka Hashimoto
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌『LAST』issue.16 「Shoemakers in Japan 2019 靴を仕立てる。」より抜粋

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