「RE」をめぐるさまざまなアプローチ。
2. シューホリック 井上祐太さん

サステイナビリティやSDGsの考え方には、ゴミや廃棄物を少なくするために、人間が生み出したものを再利用、再活用していこうとする方向性も含まれる。ではそれは革靴においてどういった形で具体化され、行われているのか。
ここでは「RE」つまり「再生」というテーマを、それぞれ異なるアプローチを追求している3人の担い手を訪ね、その考えを聞いた。


【RE-Use】
Shoes A Holic
シューホリック

シューホリック
住所. 東京都国立市東 2-6-6 フジノビル2F
tel. 050-5534-6695
営業. 14:00 [平日]・10:00 [土日] 〜 18:00 月木休
HP. https://shoesaholic-jp.com


コンセプトは、靴の古美術商

「椅子がわりにしているのは一升瓶のケースでその上のクッションはニトリ。ニトリといえば絨毯も鏡もそうですね。シューホリックはなるべく高く買い取らせていただき、いいものを安くお売りする。これをモットーとしておりまして、そのためのニトリです(笑)」

 シューホリックが扱う靴のほとんどは7掛け、8掛けで販売されている。利幅が薄くとも高回転させることで成り立たせているという。売れ残れば値を下げることにもためらわない。そこだけみれば赤字だが、販促費と考えれば十分元はとれる。

「こんなに安く買えた、という口コミに勝る広告はありません」

井上祐太さんが “高級靴専門の販売・買取ストア” を謳うシューホリックを立ち上げたのは2011年のこと。これまではオンラインのみの商売だったが、試し履きをしたいというカスタマーの声に応えて昨年7月国立に店を構えた。現在の年間の販売足数は数千足にのぼる。

「この商売を始めたきっかけは、かめ吉のオーナー、西口(太志)さんでした。かめ吉は目利きなら知らない人はいない、時計で買取をやったオーソリティですね。西口さんには昔からかわいがっていただいてるんですが、あるとき、『靴の買取ってのはないぞ。おまえやらへんか。やるならぼくのノウハウを教えてやるよ』といわれたわけです」

希少なハンドソーン、ベンティベーニャ製法のシルヴァノ・ラッタンジ。横浜の洋品店、信濃屋の白井俊夫さんがインポータのハイブリッジインターナショナルでオーダーしたもの。

デザイナー→テーラー、そして “古美術商” へ

 井上さんのこれまでは破天荒の一語に尽きる。文化服装学院に入学するも、夜遊びにかまけて1年目から出席日数が足りなくなる。2年次は賞金目当てで(笑)応募した賞レースをことごとく勝ち抜き、ついに海外留学の権利をつかむ。前途洋々渡った英国でテーラーの世界に開眼、デザイナーの道にあっさりと見切りを付けてテーラー・スクールの門を叩く。

「それまでのテーラーのイメージって、おじいちゃんの世界だったわけです。つまるところ、一周回ってクールだった。でね、自分でいうのもなんですが、テーラーとしても才能があったようです(笑)」

 ここでも頭角をあらわした井上さんは銀座の名門老舗、壱番館洋服店に採用される。さすがに年貢を納めたのかと思ったら、今度は「日本有数の顧客を抱える壱番館を通して商いの魅力を知って」独立開業の道を模索し始める……という具合に、何人分の人生をおくってきたんだろうと思わせる20代を過ごした。

 奇しくも井上さんの退社のタイミングで壱番館の先輩がラルフ ローレンに移籍した。あの表参道の店ができた年である。「おまえもこい」と誘われた井上さんは、起業をいったん棚上げしてついていった。シューホリックの原型は、そこで生まれた。

イタリアはローマの至宝、ガット。1912年に創業、上流階級の紳士に愛された。オーダーは5足からでないと受け付けなかった。とろけるようなカーフの肌合いにも驚く。未使用品。

「テーラーってほとんど例外なく靴が好きだと思います。チクチクやってると無性に革が触りたくなってくるんです。仕事に疲れたときの息抜きは靴磨きでした。円高の時期で安く手に入るからちょいちょい海外のサイトでポチってました。やっぱり靴って面白いなって思って、サイズが合わなくても買うように。で、あるときいらなくなった一足をヤフオクに出品してみたんです。そしたらめちゃくちゃ感謝された。ネットは未来の媒体。あと5年早かったらIT業界をのしたかったくらいでしたから(笑)、迷うことなく個人輸入の世界に飛び込みました」

ネットオークションの ebay を主戦場とした商売は、かめ吉の西口さんの助言を得て買取に発展した。

「古いものはいい。ほんとうの服好きが例外なく古着屋に通うのはそういうことです。シューホリックでは目の肥えたそんな消費者が満足する靴だけを取り揃えています。御用聞きのように良いものが入ったら馴染みのお客さんに連絡します。そうやって循環させるこの商売を、わたしは古美術商と思っています」

シューホリックが手がける子ども靴のブランド、靴の絵巻。履けなくなっても絵巻のように慈しめる靴を目指しているという。子ども靴ながら、製法はハンドソーンウェルテッド製法。

お話を伺った方
井上 祐太 さん
文化服装学院中退。テーラー技術を学び、壱番館洋服店、ラルフ ローレン表参道を経て2011年にシューホリックを起業。2019年7月に東京・国立市にショップをオープンした。


photographs_Hirotaka Hashimoto
text_Kei Takegawa
○雑誌『LAST』 issue18 『Leather Shoes and Sustainability Grapple with “RE” 「RE」をめぐるさまざまなアプローチ』より抜粋。

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