「ミレニアルラスト」という解。

バイヤーとメイカーが語る、ミレニアルラストと靴づくり。

ヒロカワ製靴のファクトリー内で話し込む、廣川雅一社長(右)と田畑智康バイヤー(左)。田畑氏の左奥にあるのがグッドイヤーウェルテッド専用につくられた最新式のトウラスター。独特な木型形状はこのトウラスターほか、ファクトリーの最新設備と技術力で靴として具現化することができる。

 ミレニアル世代、つまり1980年代〜2000年代に生まれた若い世代に向けた木型「ミレニアルラスト」。そのプロジェクトはメンズシューズバイヤーである田畑智康氏のある気づきから始まった。田畑バイヤーが靴売り場のセールスマネージャーだった際、若い人たちが靴の試し履きをした後、首を傾げて帰っていくところをよく目撃していた。それはミレニアル世代の年長に属していた彼にも思い当たるところがあった。

  「例えば若いお客様で、足の甲、ボールジョイント間の上側にタコが出来ている方が結構いらっしゃいます。実は私もそうで、それは靴の屈曲部が甲に当たるからなんです。従来の靴や木型では、薄い甲に対応できず空間が余ってしまう。そこで、木型から新しくすることで、より多くの若い方々に革靴を履いてもらえるようになるのではと考えたのです」(田畑バイヤー)

 折しも先述した顧客の足型データをとり、木型データとのマッチングで靴をリコメンドする「Your FIT365」のメンズへの導入も進んでいた。その取り組みに早々に協力したヒロカワ製靴の廣川雅一社長に、このミレニアルラストについて相談したのが2019年の6月。以来10ヶ月以上の時間をかけて、ようやく新しいラストと、そのラストでつくられた靴が完成したという。

「サンプルシューズは4回ほどつくり直したでしょうか。こうしたらいいのでは、ということが次々出てきて、修整を重ねました」

 このように語る廣川社長。田畑氏の要望を受けて製作した木型は、『スコッチグレイン』中最も細身のシングルEよりもさらに細いDワイズで、ヒールカップも2段階小さくなった。そこでアッパーの形を決める紙型も修整し、インソールの形状も大きく変更している。

「先般導入した手に近い力加減でつり込める最新のトウラスターを使い、さらにクリッピングの工程を増やすことなどで、こうした木型形状に沿った靴がつくれたと思います」(廣川氏)

ミレニアルラストの靴は、ファクトリーの高い製靴技術の反映でもあるのだ。

右がミレニアルラストの靴に使われているインソール、左は従来のシングルEモデルに使われているもの。土踏まず周辺のえぐれ方などが全く違っている。木型にあわせて、靴の生産工程や部材も変わってくる。
右がミレニアルラスト、左がシングルEのラスト。踵が小さいのもミレニアル世代の特徴という。
各メイカーが提案するミレニアルラスト、その形と靴。
顧客の足を測定し、足にあった木型の靴をレコメンドする「YourFIT365」がメンズでも始まる中で登場した、若い世代に向けた「ミレニアルラスト」。従来の木型や靴とは一線を画す「新しい基準」を一挙紹介する。

photographs_Toru Oshima, Takao Ohta
text_Yukihiro Sugawara
○雑誌 LAST ISETAN靴博 2020 特別号『「ミレニアルラスト」という解。』より抜粋。

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