『クロケット&ジョーンズ』 ノーザンプトン、更新を続ける英国靴の伝統。

木製のシャンクを入れた後、十分な量のコルクを手作業で充填する。コルクの表面を均した後は24時間〜48時間そのままにしておくという。

技術よりも重要な知識と理解。

 次に案内されたのは、革のクリッキングを行うセクション。建物の最上階にあって、自然光がふんだんに入ってくる。集中が必要な工程なのでいい環境が必要、とフォックス氏。パタンナーのところで見た透明なパターンを使い、手作業で革を切り出すワーカーの傍で、プレスナイフと呼ばれるパーツ型状の刃を使って革を切り抜くワーカーもいた。

「実はこのプレスナイフ、現在は自社生産なのです。以前私たちにプレスナイフを売っていた会社のトップがリタイアすることになって、買収を打診されました」

 小ロット&多品種生産が主流となった現代においては、大量生産のための道具ともいえそうなプレスナイフは、廃れつつある。そのメーカーを敢えて吸収したのは、自社への安定供給という理由のほかに、複雑な構造のプレスナイフを生み出す職人技を保持することも目的だったのかもしれない。

 こうした自社にてパターンやプレスナイフまで手がける、その「自製」の姿勢は、クリッキングルームの下にあるクロージングルームによく表れていた。

「クロージングのセクションだけで、100名のワーカーが作業をしています。メーカーによっては外注する場合もありますが、私たちは全ての縫製を自社で行なっています。技術力はもちろん大切ですが、それ以上に、さまざまなモデルや仕様が同時につくられる、その状況が重要だと思っています」

 つまり、個々のワーカーが自社が手がける製品について深く理解し、モデルに応じて作業内容を臨機応変に変化させているゆえに、遅滞なく進むということだ。そしてクロージングのワーカーたちは、そうしたさまざまなバリエーションを手がけることを、むしろ楽しんでいるとフォックス氏は語る。

火で温めたウィールを使ってソール底面の仕上げを行うベテランワーカー。底の仕様もさまざまあるので、それらを工程も含め理解しておく必要があるという。
グッドイヤーウェルティングの様子。ウェルト用の革も、形や色などさまざま用意されている。
ハンドポリッシングの様子。1ペア20分程度かけて磨く。
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