別注によって得られるものづくりの楽しさ、技術の向上。
さらに階下に進んで、ラスティング、グッドイヤーウェルティングそしてボトムコンストラクションの工程へ。ここでもまた多種多様なスタイルやラスト、そして部材が同時に使われ、靴として仕上げられていく。現場ではちょうどオリジナルのラバーソールの底づけを行なっていた。
「これはC&Jオリジナルのラバーソール『シティソール』です。あのダイナイトと同じ工場でつくられています。実はダイナイトと当社は関係が深いのです。現オーナーはジョーンズ社長の従兄弟で、プロダクションディレクターは甥です。ファミリーゆえに、こうしたエクスクルーシヴなものが実現できるのです」
現状は別の会社だが、こうしたダイナイトとの取り組みも、内製の一例といっていいだろう。フォックス氏はさらに階下のフロアへと取材班を案内した。
「ここはいわば、ファクトリー内のファクトリーになります。買い付けたベンズから、ソールやインソールを切り出し、さらにヒールもつくっています」
ちょうど現場では、ヒールの積み上げを行なっていた。トップリフトこそ社外製のものを買い付けているが、その間の積み上げは革を一枚一枚切り出し、重ねてヒールにしていく。革ではないレザーボードなどを積層したパーツを買い付け、ヒールにする場合も多い中、手の込んだ、高い品質を実現する隠れたプロセスといえる。
最後に案内されたのは仕上げの工程。
「仕上げもスタイルやレザー、さらにはMTO(メイド・トゥ・オーダー)の別注内容などによってさまざま変わるので、現場のワーカーはそれらをすべて理解して、プロセスを随時変えなくてはいけません」
熟練のワーカーたちが、別々のラックに乗せられた靴それぞれに、ひとつひとつ作業を積み重ねて、仕上げを完成させる。あるアンティーク仕上げなどは、明るいタン色の革を段階を経て色付けしていくため、場合によっては1週間程度かかるものもあるという。
ところで、日本では各セレクトショップごとの別注モデルが多い印象だが、実際生産足数に対してどのくらいの割合なのだろうか。
「現状、別注、つまりMTOは全体の約5割になります。日本には数多くのショップがあるので、結果的にMTOも多くなりますね」
このように語るフォックス氏。さらにそれは顧客の満足につながる一方で、ファクトリーにとっても作業に変化が生まれ、技術の向上につながるとも。こうした柔軟で、ポジティブなスタンスが継承されているからこそ、C&Jからは各時代の要請に応える靴が生まれ続けるのかもしれない。
photographs_Satoko Imazu
text_Yukihiro Sugawara
◯「LAST」issue15(2018年10月発行)/『現在進行形のヘリテージをめぐって』より抜粋。