好きなことをやるのに10倍努力する
では、「DECO」のような土屋氏のアイコニックなスタイルはどのように生まれたのだろうか。当方の問いかけに、土屋氏は使用済みの紙型の裏側に靴のスケッチを描きつけ、次のように答えた。「これは日本だけかもしれませんが、子どもが靴の絵を描くときに、大体こうした、横からみたオデコ靴を描くでしょう。ここからどうしても離れられないのです。これを、このイメージを現実に人が違和感なく履るものにしたかった」その思いは津久井氏に出会う前から、10年以上ずっと持ち続けていたという。これまでサンプル製作を重ねたのは50以上。「この形と、靴づくりが好きなので、ずっとやり続けてこれたのだと思います。あと、鞄職人の藤井(幸弘)さんにかけてもらった言葉も励みになりました」藤井氏からは、「君のやりたいことを実現するなら、オレの10倍努力しないと」と言われたという。クラシックで美しいものを追求するのは確かに労力が要るが答えは見つけやすい、しかし好きなことをそのレベルまでもっていくには、前者を遥かに超える努力が必要なのだと。
現在の木型形状に落ち着いたのは5年前、ちょうどいまの工房に移る頃だった。1の甲をしっかり抑え、屈曲部のフィット感を出して靴の中で足がすべらないように。その結果膨らんだトウとの間に「くびれ」が生まれ、ボリューム感に繋がっている。「トウがこの形なので、やりすぎてしまうと木型が抜けなくなってしまいます。目指すシルエットと、つくり方、フィッティングでバランスをとるのが重要です。靴の上側だけでなく底面形状も含めて、配慮しています」オーダーする際のゲージサンプルを履かせてもらうと、土屋氏のいうバランスがよくわかった。甲部のフィット感がありながら、屈曲部はスムースに曲がり歩行しやすい。そして履いてみるとトウから甲へ描く弧は自然な感じで、自身からの目線や、鏡に映る姿など、決して極端な、コスチューム的印象は受けない。ただ、他とは異なる個性があり、足元が目を惹くのは確かだ。「特定のファッションやスタイルとは関係なく、僕の中でこの靴はおしゃれだと思っています。よく靴は装いの中で脇役、と語る靴職人もいらっしゃいますが、異端かもしれませんが、僕は靴が目立ってもいいじゃないかと、思うのです」
shop information
『So Tsuchiya(土屋 聡)』
プロのダンサーから靴づくりに転向。台東分校で靴づくりを学び、義肢装具制作などを経て、斉藤敏廣氏のもとで木型づくりやオーダー靴について、津久井玲子氏のもとで靴づくりを修める。2015年にオーダー靴サロン『So Tsuchiya』を国立にてスタート。パターンオーダーは九分仕様で¥120,000~、オールハンド¥170,000~、木型修整は1箇所プラス¥6,000、フルスクラッチ(独自木型制作)はプラス¥30,000~¥50,000。ビスポークは¥300,000~。納期などは要相談。
住所:東京都西国分寺市光町1-26-32
tel. 042-843-0687(要予約)
http://www.sotsuchiya.com
photographs_Satoko Imazu
〇 雑誌『LAST』 issue.17 より