「高い革靴 “そのわけ”とは?」

「高級紳士靴の価値」とは。

高い革靴には「価値」がある。世界最大級のメンズシューズフロア担当者へ「高い革靴の“わけ”」を聞いてみた。

「私は、革靴と日本のお寿司が、よく似ていると思うんです。日本で回転寿司を食べると、だいたいおいしくいただけます。その一方で、一人前3万円を超えるお寿司もあって、それはそれで素晴らしい。革靴も同様なんです」靴売り場で扱われる靴はどれも良い(寿司でいうところの、おいしい)、それが大前提と語る、伊勢丹新宿店の紳士靴 バイヤー(取材当時)田畑智康氏。

それでは高い靴との違いは何か、彼は3つのポイントを挙げた。

「第1は〝素材〞、お寿司でいうところのネタです。高級なお寿司は、マグロでも例えば大間のマグロの、それも一番いい部位を使っています。革靴も一緒です。フランスのアノネイなどのタンナー(革なめし業者)の革から、一枚一枚選り分けて、さらにその良質な部分を裁断します。しかも、高級寿司店がネタを寝かしたりするのと同様に、靴メーカーも革にひと手間加えています」

そのフィッティングが好みと田畑氏が語る、『ガジアーノ&ガーリング』の「Oxford」。ラウンドトウのトラディショナルラスト「GG06」を使っている。上写真はヒールカウンターについて説明する田畑氏。¥220,000(伊勢丹新宿店 tel.03-3352-1111)

田畑氏が2番目の要素として挙げたのが、〝技術〞。「おいしいネタだけでお寿司は完成しません。つくり手の技術が大切で、それは革靴でも同じです。シャリのふっくらとした質感を生み出す寿司職人のように、細部へのこだわりを再現できる匠の技術、手間暇が、革靴づくりにも存在します。お寿司もそうですが、高度な技術が盛り込まれた革靴は、芸術品のような佇まいがあります。それは、靴売り場で見比べていただければ、感じ取っていただけると思います」

そして個人的な見解ですが、と前置きして、田畑氏が3つ目に挙げたのが、〝履きやすさ〞。「革靴は道具でもあるので、高級紳士靴を手がけるメーカーは、履きやすさを改善し続けていますね。例えば『ガジアーノ&ガーリング』だと、踵まわりをホールドするヒールカウンター(芯材)が、土踏まず内側ぐらいまで長く入っています。このことでフィッティングが良くなり、接地の際の負荷も軽減されていると感じます。もちろん木型やパターンなども常に研究されています。メーカーの現場を訪ねると、そうした履き心地へのこだわりがよくわかります」

田畑智康(Motoyasu Tabata)
伊勢丹新宿店 紳士靴 バイヤーを長年にわたって務め、現在は伊勢丹新宿店 紳士営業部 B ショップ担当 フロアマネージャー。世界各国の、さまざまな紳士靴メーカーの現場を訪ねて培った知識をもとに、幅広い顧客の要望に対応する靴を紹介してきた。

photographs_Takao Ohta,
〇 雑誌『LAST』 issue.20 より


タイトルとURLをコピーしました