日本の靴づくり「福井氏の木型を使った、最新の靴。」
『フォルメ』のローファー、その木型について。
福井利三氏が最後に手がけた木型は、浅草を拠点するシューズブランド『フォルメ』がこの春に発表したローファーに使われている。「福井社長とは、会社を閉じられる2〜3年前に知り合いました。もう少し早くお会いして、いろいろお願いできていればと、思うこともあります」こう語るのは、『フォルメ』のディレクター、小島明洋氏。これまで『フォルメ』の靴づくりにおいては、小島氏がベースのラストを作成し、それをもとに量産木型を製作するやり方をとってきた。小島氏自身が木型づくりで悩んだ際、相談に乗ってもらっていたのが福井氏だったという。そして福井氏が木型製作を辞めると聞いて、ローファー専用の木型を依頼したのだった。「ローファーはそれまで手付かずだったので、ぜひ福井社長につくっていただきたかったんです」と小島氏。
『フォルメ』のNo.10木型をベースに、ローファー用の肉付けと、捨て寸を15ミリとるという条件で製作を依頼。仕上がった木型形状を見て、当初小島氏はつま先を手直ししたほうがいいかもしれないと思ったそう。ところがその木型で靴をつくったところ、トウまわりのシルエットなど、申し分ないバランスで仕上がったのだった。「すごいな、と思いました。僕自身、木型の時と、靴に仕上がった際のイメージが一致しないことがあります。福井社長は靴になった状態の見え方を想像して、木型を削っていたわけです」さらにフロントのモカステッチの線もとりやすく、インサイドとアウトサイドの高低差も理屈として合っていて、靴をつくる際に矛盾が出なかったとも。そして、仕事も驚くほど早かった。「僕なら木型を削るのに3ヶ月はかかるところを、福井社長は合間合間で作業をやって2週間ほどで仕上げられました。それもびっくりです」
photographs_Satoko Imazu
〇 雑誌『LAST』 issue.20 より