ブーツをカスタムする、サスティナブルな革靴の楽しみ方。
ブラス

ワークブーツをカスタムすることが一般的になりつつあるという。リペアから生まれリペアを超えた靴の楽しみ方、ブーツカスタムの世界を覗いてみた。

BRASS ブラス

ブーツカスタムを拡げてきたショップ。

 ブーツ、特にワークブーツ系のものに、ここ10年ほどで広まってきた「カスタム」という楽しみ方がある。形の違うソールに変えて、靴の姿や機能を変える。ハトメの一部をフックにしたりサイドにジッパーを付けたりすることで、脱ぎ履きを容易にしつつ外観のイメージを変える。サイズが合わない靴をリラストして、より良いフィットと新たなフォルムを得る。こうしたカスタムが、様々なリペアショップの手によりなされるようになった。もとより頑丈で、長年の使用に耐えるワークブーツ。こうして楽しみながら履き続けていくのは、サスティナビリティそのものではないだろうか。

 2007年に開業した当時はドレス靴をメインにリペアを行っていたという『ブラス』。現在ではブーツ好きに高く評価され、リペア依頼の半分はブーツとなっている。その更に半分はカスタムの依頼だという。

 ブラスでは2012年より、自社の靴ブランド『CLINCH(クリンチ)』を立ち上げ、ハンドソーンを主な製法とするクラシック・テイストのブーツとシューズをつくっている。その生産で培った技術、そのための充実した設備をリペアやカスタムに使うことが、ブラスならではのカスタムを可能にしている。

 オーナーの松浦稔氏によると、自社で靴の生産を始めたのはリペアの限界を極めるためでもあったという。靴を生産することを滞りなく出来なければ、歴史あるブランドが製造した靴のリペアを元の靴と同等の仕上がりで完了できない、と考えたからだという。

 ブラスの豊富なブーツカスタムの引き出しは、このようにして得られたものだ。だからこそ、ここに持ち込まれる依頼には単にソール交換を超えた高度なものも多い。クリンチのラストを使ったリラストや、アッパーに大きく手を入れてサイズやデザインを変えるといった類のものだ。こうした依頼は当然ながら料金も相応で、カスタムの内容によっては新しいブーツが買える金額となることもある。しかし、そうして得られる唯一無二のブーツに価値を見出すユーザーが増えているのだ。

 また、そのようなカスタムを施す際はお客様との入念な打ち合わせが必要だと、松浦氏は強調する。カスタムでブーツの姿が変わる事を望んでいるオーナーも、ブーツのどの部分をどのように変えると想像通りになるかを理解するのは難しい。オーナーが漠然と想像している仕上がりイメージを捉え、その姿を良好なバランスで実現するために何をするのかを丁寧に説明し、納得していただいた上で実際の作業に取り掛かる。そのプロセスは、カスタムに対するオーナーの十分な満足を得る上で不可欠なのである。

 真摯な姿勢でカスタムされ生まれ変わるブーツ。そのままクローゼットで眠り続けるかも知れないブーツの運命を変える事にもなる。 

新品のブーツをカスタムする依頼も少なくない。これはレッド・ウィングのエンジニアブーツのスティール先芯を抜いて、クリンチのナローラストでリラストする、というもの。中底、ウェルトを交換しひーるカウンターも革製のものに交換。ソールはレザーのシングルソールとし、ヒールも低く変更され、印象をガラリと変えた。カスタム料金は¥47,000。
店内には古い時代のヴィンテージの靴も並んでいる。こうした靴を数多くリペアしてきた経験がブラスの強みだ。
ブラスのオーナー、松浦氏。話の端々に一流の探究心がのぞく。
ブラスが独自で復刻した往年のアメリカのソール「オサヴァリン」。

BRASS
add. 東京都世田谷区代田 5-8-12
tel. 03-6413-1290
HP. https://www.brass-tokyo.co.jp


photographs_Takao Ohta
text_Michiya Suzuki
『LAST』 issue.18 「ブーツをカスタムする、サスティナブルな革靴の楽しみ方」より抜粋。

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