NICHOLAS TEMPLEMAN ビスポークの本拠で模索する、等身大の靴づくり。

テンプルマン氏のサンプル・シューズ。無骨なハンマードバックルと流麗なシルエットとのコントラストが独特な存在感を生む。

継承される技術
そしてクリエイティビティ。

 工房では、テンプルマン氏はラストの切削やパターンメイキング、さらには革のクリッキングなどを行なう。その後外部のクローザーにアッパーの縫製を依頼し、さらに別の外部のメイカーにラストやアッパーとソール用の革などを渡して底づけ(ボトムメイキング)してもらう。そのやり方自体は、ジョン・ロブなど他のロンドンのビスポーク靴店と同様である。また、採寸などにはジョン・ロブと同様の紙テープを使っている。「これがベストのやり方です」とテンプルマン氏。もっとも採寸箇所は4箇所と、ジョン・ロブよりひとつ増やしているが。

「ハンドソーンの靴づくりは、基本的には同じで、つくりなどに大きな違いはないかもしれません。こうしたやり方はいわば伝統であって、継承しなければ途絶えてしまう技術だとも思っています。日本にも刀鍛冶のような、伝統工芸があるでしょう。そこで私としては、こうした継承されてきた技術を使いつつ、ちょっと違ったものをつくる、いかに現代のライフスタイルに適合するものにできるか考えることが、重要だと思っています」

サンプルのチャッカブーツ。シンプル&クラシックながら、どこかエッジが立った存在感だ。

一枚革のパーツでつくられたアッパー。一筆書きのようなスタイルには、緻密なパターンワークが求められる。

こちらも人気のアデレイドスタイル。クラシックになりすぎない存在感。

 こう語るテンプルマン氏は、自分はブリティッシュスタイルを追求しているわけではないという。「ジョン・ロブやフォスター&サンで見られるような典型的なスタイルではない、それ以上の何かを求めて、お客様は私のところにいらっしゃるのではないでしょうか」と。そんな彼の言葉を裏付けるように、ワークショップの床にはスマートなトウシェイプのラストがいくつか並んでいた。

「私の足をベースに、通常の英国のものとは異なるトウシェイプを試したものです。いつも新しい形を探して、フランスの靴や、日本の靴を見て、研究として実際つくってみたりもします。このスマートなラストはフランス的な美意識に興味があってつくってみたのですが、もう少し中庸な感じのほうがいいかもしれませんね」

 そして、そうそう、こんなものもあります、と彼が持ってきたのは繊細な足をもとにしたラストだった。

「これはウィリアム・ロブのラストです。ラスト研究の一環として、自分で彼のラストのレプリカをつくってみたのです。こっちはフロント、つまりトウ部がごく短くて、昔のバランスでつくられていますね」

 そんな風に説明するテンプルマン氏を見ていて、あのダブルモンクをつくった伝説の靴職人ウィリアム・ロブと繋がるところがあるかもしれないと感じた。彼らの間にはビスポークの靴づくりにおける創造性の継承があるように、思えたからだった。

人気があるという、ハンドソーンのモカステッチを配したエプロンフロントダービー(右)。左はつり込んだ状態のアッパー。ちょっと長めのトウシェイプが印象的。
自宅の3階部分にあるニコラス・テンプルマン氏のワークショップ。自分で少しずつ手を入れているという内装は、至る所まだ作業途中だった。自然光がふんだんに入る明るい空間は、ラスト切削にも好環境といえるかもしれない。

Nicholas Templeman 
ニコラス・テンプルマン

2014年より自身名義のビスポークの靴づくりをスタート。価格はカーフレザーの短靴で£2,750〜、アンクルブーツで£2,850〜(ともにツリー付き、VAT別)、仮縫いは基本的には1回で、納期は最短で10ヶ月〜。
http://www.nicholastempleman.com


photographs_Satoko Imazu
text_Yukihiro Sugawara
◯「LAST」issue15 /『現在進行形のヘリテージをめぐって3』より抜粋。

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