愛用の靴や愛着を持っている靴を紹介いただく、靴の達人シリーズの第6回。今回登場いただくのは、フランスのパリでご自身のスーツブランド『ハズバンズ』を設立したニコラ・ガバールさん。靴に対する情熱と強いこだわりを語っていただいた。
スーツの表情は、靴で変わるというのが信条。ニコラ・ガバール氏、自身のブランド『ハズバンズ』の試作を重ねたビットローファー。
ニコラ・ガバールさんがスーツの魅力に目覚めたのは、弁護士だった頃。しかしその前からずっと、自他ともに認める服好きだった。少年時代は、映画スターやミュージシャンの着こなしに憧れ、古着屋に通い、小遣いをすべて服につぎ込んだ。
9年前にパリで立ち上げたスーツブランド『ハズバンズ』は、硬派な英国調でも、華美なイタリアンでもない、パリジャンらしい力の抜けた感性が評判。そのバランス感覚は、服に対する情熱と、服をとりまくカルチャーへの飽くなき好奇心から得られたものだ。しかし主役は服ではなく、あくまでも着る人だという。
「スーツは、誰もが持つべきワードローブの定番で、真っ白なキャンバスのようなもの。着る人の個性や物語によって彩られ、着慣れた頃には、その人らしさが滲み出す」とニコラさん。
「開放的で、折衷的」と自らのスタイルを描写する彼が取材日に着たのは、70年代を匂わせる『ハズバンズ』のピンストライプ柄のダブルブレストジャケットと、ハイウエストのトラウザーズ。ヴィンテージのデニムシャツと、エナメルの細ベルトを合わせた。
足元は、自らデザインした瀟洒なビットローファー。細めの甲幅とシャンクのカーブにこだわり、試作を重ねて完成させた。「スーツは万能で、靴でがらりと印象が変わることを表したかった。これを履けば、このまま踊りに行けそうでしょう?」
Nicolas Gabard(ニコラ・ガバール) プロフィール
弁護士、PR 会社経営のキャリアを経て、2012年にパリで『ハズバンズ』設立。ブランド名はジョン・カサヴェテスの同名の映画からアイデアを得た。パリの自店を「服の研究所」と呼び、ヴィンテージからヒントを得た現代のスーツスタイルを提案。
photographs_Chieko Hama, text_Yuki Tamura
〇 雑誌『LAST』 issue.20 より