『SCOTCH GRAIN(スコッチグレイン)』工場取材。新たなファクトリーで追求される、グッドイヤーの現在形。

『スコッチグレイン』の靴づくり。その根底にあるのは、グッドイヤーウェルテッドに関する独自の探求だった。

2階ではつり込みからウェルティング(すくい縫い)、そして底付けまでが一気に行われている。旧工場の建物と新しいビルが繋がったことで、ワンフロアで作業が流れるようになった。先ほどの裁断の工程とは対照的に、ここには最新鋭の機械が数多く導入されている。

「新しいトウラスターやソールに圧力をかけるローラーなどの導入で、より木型形状を反映させた靴ができるようになりました」と廣川社長。従来からライニングにパンチングを配して通気性や伸縮性をもたせたり、コルクの代わりに合成樹脂のスポンジをフィラー(中物)に採用してクッション性と耐久性を強化するなど、『スコッチグレイン』のつくりには独自の合理性が盛り込まれていたが、それはさらに進化しているように見える。

もっとも、こうした同社の独自性は、単なる合理化というより、伝統的なグッドイヤーウェルテッドの靴のポテンシャルを最大限引き出そうとする姿勢から導かれたもの、といえるかもしれない。その姿勢は3階で行われていた、同ブランド独自の仕上げ「モルトドレッシング」の工程にも見て取れた。

「いまは新型コロナウイルスの影響から生産数を抑えていることもあり、手の空いたファクトリーのスタッフで手分けして磨いています」と廣川社長。仕上がった靴にモルトドレッシング用に成分を調整した油性ワックスとスコッチウイスキー「ダルモア」を使って一足につき30分、丁寧に仕上げていく。こうした手仕事がファクトリーにて、ある程度の規模で行われているとは思いもよらなかった。

アッパーの踵部分のくせづけ。木型を入れてつり込みする前にこの作業を行うことで、ヒールカウンターがしっかり収まるという。
最新鋭のトウラスターによる、靴前半部のラスティング。「木型の形がしっかりと甲革につくようになったので、こんどは木型を抜くのがたいへんになりました」と廣川社長は苦笑する。
つり込み作業の後に、木型の踵部分に釘を使って、アッパーを固定する工程。踵の深さを決める作業で、熟練の技が求められる。
『スコッチグレイン』の特徴である、スポンジのフィラー(中物)。樹脂製のシャンクもスポンジで包まれていて、底付けしたあと内部に空間が生じないという。
木型に釣り込まれたアッパーとインソール、そしてウェルトを縫い合わせるグッドイヤーウェルテッドの工程。イタリア製のウェルト用革はしっかり芯まで染められていて、柔らかく割れにくいという。
角度をコンピュータで制御しながら、底面にローラーをかけるマシン。ソールが木型底面形状にしっかりと馴染む。
ソールまわりの仕上げは手作業の要素が多い。これはコバまわりを着色している様子。
スコッチウイスキーを使用したモルトドレッシングを行う様子。アノネイ「ベガノ」のミディアムブラウンカラーに、琥珀色の輝きがもたらされる。コロンブス社「ブートブラック」の乳化性クリームで磨いた後、さらにこの仕上げが行われる。

「ちょっとお見せしたいものがあるんです」と、廣川社長は取材班を屋上に案内した。そこには多くのソーラーパネルが配置されていた。「現在ファクトリーの照明の3分の1をこれで賄っています」と廣川社長。最近の新社屋の流行、と冷ややかに見ることもできるかもしれない。ただ、ここまで見てきたファクトリーの様子と、そこに見え隠れするものづくりへのスタンスを感じるにつけ、これもまた『スコッチグレイン』のメーカーシップの発露かもしれないと、妙に納得したのだった。

新社屋屋上に配されたソーラーパネル。周りに高い建築物が少なく、発電効率が良いことが窺える。停電後は蓄電できている容量により蛍光灯などの電力を賄えるという。
今回ファクトリーを案内していただいた廣川雅一社長。素材選びや木型づくり、最新鋭の機械を導入したプロダクション、モルトドレッシングの仕上げまで、廣川社長のディレクションのもとで進められている。

information contact
スコッチグレイン銀座本店
tel:03-3543-4192

photographs_Satoko Imazu
〇 LAST issue21 より


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